第134回「大停電目前?東電の技術力を疑う」

 東京電力の全原発17基が一時止まり、東京大停電の恐れと言われても、少し前までは「危機感を煽っているだけ」と取り合う気がしなかった。故障が多くても系統的に対処すれば修理は間に合うはずだった。しかし、大きな需要ピークがありうる6月を控え、柏崎刈羽原発6号機1基だけしか運転を再開できないでいる現状を点検して、東電の技術力に疑問を持たざるを得なくなった。金融機関の例が示すように、危ない危ないと言われ続けて「やっぱりダメだった」が、最近のこの国のパターンである。将来のことを見越して強力な布石を打てる人材はどこにもおらず、ポテンシャルの井戸に落ちるように、ずるずると大停電へ向かってしまう恐れがある。


◆品質管理の怠り示す不具合の山

 原発17基が今どうなっているか、東電の2月28日付資料をもとに新聞各社のウェブから入手できるデータで一覧にした。詳細不明の原発があるが、取材しようとしても、この会社の体質として取材意図を明かしたら応じようとしないだろう。  炉心隔壁(シュラウド)のひび割れは国が問題としない程度であっても、住民対策から東電はほとんどを修理する方針を打ち出している。再循環系配管ひび割れは、超音波探傷技術の確かさに疑いが生じており、結局、全部修理するしかないとみられる。行政処分での停止を含め▼印10基はかなり時間を要する。

 逆に運転オーケーの◎印は、発電を開始した柏崎刈羽6号機に、点検最終段階の原子炉格納容器気密性試験を済ませた福島第一6号機だけである。

 無印5基はどうだろう。福島第一3号機と福島第二1号機は4月段階で早くも原子炉格納容器気密性試験を受けさせたいとアピールがあったのに、5月末に至っても実施情報が無い。福島第二1号機は別の場所にひびがあったと伝えられる。柏崎刈羽7号機も再循環系配管を持たない設計の最新鋭機であり「自主点検でシュラウドひび確認されず」である以上、早期に運転再開して良さそうである。が、最近の定期検査は40日程度で終わるはずなのに、もう60日近くも止まっているのは発表されない不具合があるからではないか。現に福島第一6号機は40日完了ペースで進んでいる。

 2月段階で東電が早期に再開させたいと挙げていた「福島第一原発2、3、4、5号機、柏崎刈羽原発6、7号機」のリストと、5月段階の可能性ありリストを比べると、福島第一2号機が消えている。2号機はひびがあったシュラウドを先取り交換してしまっていて条件が良かったはず。何があった!?

 もともとひび割れがあった原発に、さらにひび発見の報道が繰り返されている。これだけ多数の同タイプ機械を長期に運転していて、機械系の故障発生率を管理できていないのは驚くべきことだ。停止して開けてみないと、何が出てくるか分からない。出て来た故障個所に振り回されて、事態を早期収拾するための最適化など誰の頭にも無いかのよう。これが日本一の原発保有電力会社の技術力か。

 新潟日報の東電事件関連連載のひとつ「第7回 丸投げ体質」で田中三彦氏が「東電の技術者は原発の細部が分からない。点検データを読みこなす時間的余裕もなければ、力もない」と断じている。少なくも故障率管理を怠ってきたことだけとっても、状況証拠から明白だ。東電事件での虚偽の報告との関係を検証してみたいところでもある。


◆ぎりぎりの供給力で停電は防げない

 柏崎刈羽6号機の運転再開に合わせて、東電は5月8日「勝俣社長会見要旨(当面の需給見通しについて)」を出している。「7・8月につきましては、6,000万kWを超える需要が発生し、猛暑時には6,450万kWの最大電力が発生するものと予想しております。なおその場合には、供給力は▲850万kW不足する見通しであります」とある。資料から7月を中心に拾い出してみた。  850万kWの不足とは7月第4週に限られているのではない。7、8月のどの時点で最大6450万kWのピークが現れるか、天候次第であり予測できない。あまりに大きな不足を補うべく、周波数が違う中部電力から西の電力各社にも融通を頼んでいる。でも、60サイクルの電気を50サイクルに変換する施設の能力は90万kWが限界。これに、民間企業の余剰分買い取りなどを加えて400万kW程度は上積みできるとしている。

 その上でなら、4つくらいの原発が動き出せば計算上は足りる。しかし、5月26日の東北地方の地震で女川原発3号機が自動停止した例を引くまでもなく、全ての原発や火力発電が1機の落ちこぼれもなく、夏場の60日間、粛々と稼働し続けると想定するのは現実的でない。落雷で一時停止した例だっていくらもある。

 普及しているインバーターエアコンは定常状態では電気を少ししか使わず確かに省エネなのだが、急に気温が上昇したりするなら、急いで冷やすために敏感に反応するはずだ。1度の上昇は、首都圏で大型原発1基分を超える電力需要を生む。だから「7・8月には、ぜひとも8〜10基程度の原子力プラントの運転がほしいと思っております」と勝俣社長は述べる。しかし、見てきた通り、それは難しいのではないか。技術の問題の次には、地元による運転了解の問題が待つ。東電がのんびりやっているのは「じらし作戦」かと思ったことがある。案の定、福島県では地元自治体が早期運転再開を願うような行動に出たが、新潟側の見る目は依然として厳しい。

 東京には1987年7月23日に大停電の経験がある。猛暑による電気の使いすぎで280万世帯が停電、工場も止まり、1兆8千億円の損失だったといわれる。そんな古いことは知らない方でも2001年のカリフォルニア広域停電はご記憶だろう。予測されていて、パニックにならない、比較的管理された停電だったが、損失は5兆円ともいう。

 1977年7月にはニューヨーク大停電が落雷によって引き起こされた。こちらは復旧に手間取った。大都市で高需要の夏場、給電を再開しても不用意にやれば熱砂に水をまいたも同然、たちまち停電に落ち込む。電力消費はエゴのかたまりなのである。足かけ3日も続いたニューヨークでは、9ヶ月後にベビーブームが起きたことでも有名だ。