特集「地上デジタル録画の怪・2003年読者」

 「ハッピー・ニュー・イヤー」とは、とても言いかねる世情の年明けになった。いただいた年賀状にも、同じ趣旨の思いを何人もの方が盛られていた。私が数年来書き続けたコラムで指摘した問題点は積み重なるばかりで、解決の時が見えにくい。新年の特集は、その中でもスタートしたばかりの地上波デジタル放送の録画問題を取り上げたい。そして、恒例になっているアクセス集計。この連載が2003年一年間に読者にどのように読まれたか、ウェブでの集計でお届けする。こちらのベスト1も第132回「テレビ地上波デジタル化の読み違い」だった。


◆パソコンでハイビジョンは見られない?

 1月7日の新聞朝刊は、NECから地上デジタル放送の録画ができるパソコンが業界で初めて発売されると報じた。急速に売れ出しているDVDレコーダーを含めて、昨年12月の放送開始以来、録画可能をうたう製品がなかなか現れなかった。現在のDVDレコーダーは、もともとハイビジョン録画を想定していないが、パソコンなら少し手を加えれば対応は可能と期待した。

 ニュースリリースからリンクされている「仕様一覧」にある注釈を読むと「ハイビジョン映像をパソコン上で処理しやすい解像度へ変換して表示します」と、何かすっきりしない表現でおかしい。ネット上で調べると、苦肉の弁であることが判明した。AVウオッチの「NEC、業界初の地上デジタル録画対応『VALUESTAR TX』」に「ただしハイビジョン放送でも、パソコン上での表示はすべて480pに変換して表示される。外部の映像出力もS/コンポジット出力のみしか装備していないため、VX980/8Fでハイビジョン画質で視聴することは不可能」とあった「480p」とは有効走査線の数が480本を意味しており、普通のテレビ放送と同じ。

 仕様一覧で確認すると、地上デジタル放送の「テレビ録画機能」項に「独自形式(デジタルハイビジョンテレビ放送(14Mbps)、デジタル標準テレビ放送(3〜7Mbps)の録画可能」と書かれている。Mbpsは毎秒百万ビットの転送速度を表し、MPEG2形式でハイビジョン画質になるのは22Mbps以上とされるから、公表されている仕様をハイビジョンとは言い難い。いや、ハイビジョンであるかどうかは走査線数が720本以上あるかが決定的な要素だ。実態は普通のテレビ並みで、水平方向の情報密度だけは高めてあると判断すべきだろう。

 では、BS/110度CSデジタル放送の同じ項を見ると、「独自形式(デジタルハイビジョンテレビ放送(24Mbps)、デジタル標準テレビ放送(12Mbps)」。こちらのハイビジョンは本物のようである。比較すると、地上デジタル放送の場合は標準放送の画質を意図的に落として、「独自ハイビジョン」をきれいに見せようとしている疑いすらある。

 放送ソフトの違法コピー問題に発展しかねないと、パソコンの万能性を警戒するにしても、あんまりな気がする。ハイビジョン録画が出来ないどころか、このパソコンではハイビジョン視聴が出来ない。これが50万円もする旗艦モデルである。

 この春から国内のデジタル放送には「コピーワンス」の規制が掛けられる見通しだ。ハードディスクに録画したら、DVDに落とせなくなるなど、それだけでも不自由なのに、ハイビジョン放送は録画はもちろん、放送時でも見られないとなると、日本の地上デジタル放送の最大の売り物はハイビジョンなのだから、パソコンでの地上波デジタル普及は難しかろう。メーカー側は普及させたいが、違法コピー問題も怖いと、早々にジレンマに陥っている。

 ところで、ハイビジョン画質と標準画質の差を体験された方は少ないかも知れない。最近の高性能パソコンなら、ウインドウズ標準のWMV形式に変換されていれば簡単に見られる。「ビデオの輪(ハイビジョン映像,HD映像)」に、同一素材をハイビジョンの「1280×720」と標準の「720×480」で並べて提供してあった。「清水寺界隈」やSLなど両者の質感の差は歴然としている。CPUが2GHz以上のパソコンをお持ちなら、ファイルを一度ダウンロードしてから試して見てほしい。MPEG2のファイルが手に入るならもっと性能が低くても視聴できる。

 なお、「●地上デジタル放送の録画を考える」に現状でハイビジョン録画する方法が紹介されているが、かなり高価だ。

 ※補足 シャープは1/15に「デジタルハイビジョンレコーダーを発売」すると発表した。こちらは本格的なハイビジョン録画が出来るといい、価格も20万円程度らしい。250GBのハードディスクで21時間ハイビジョン録画。なお、メールマガジンの編集後記が関連した話題なので文末に収録した。


◆2003年の閲覧動向調査

 アクセス解析ソフトを利用して年間の閲覧動向を調べた。ただし、一部ログファイルの不具合などがあり、301日分しか解析できていない。実際の8割程度の数字としてご覧いただきたい。読まれたコラムの延べ数計は50万1千だから、年間では60万余りになろう。トップ10は以下の通り。  11位以下は、読者共作2「ポスドク1万人計画と科学技術立国」、第112回「食塩摂取と高血圧の常識を疑う」、時評「政権維持の強迫観念だった小泉改革」、第137回「食べ頃の妙を死後硬直の糸口で」 第53回「明治維新(上)志士達の夢と官僚国家」と続く。なお、英語版やiモード版は以上と別わくで、年間で英語版は2万ページ、iモード版は11万ページのアクセスだった。

 私のウェブはトップページから入る方より、検索サイト経由で直接、個々のコラムにいらっしゃるケースが多い。301日の検索合計224975件(検索語83510)だから、年間では28万件にも上る。使われた検索キーワードのトップ10は以下の通り。
 11位以下、「japan」「コラムの書き方」「冷蔵庫の歴史」「少子化」「合計特殊出生率」……。

 使われた検索サイト別は次の通りで、yahooのウェブ検索分も含めて、google系が圧倒的だった。MSNが辛うじて対抗しているが、他には大きな差がついている。


《編集後記・本文関連》

 正月休みは、保存しているβビデオテープをDVD化する作業に使うことになりました。昨年、デッキを修理に出すと新品が買えるくらい請求されるし、販売を停止していますから、早晩、修理も出来なくなりそうです。子どもを撮影したテープなど今しか画像を延命できない状況です。それほど高価なパーツを使わなくても、DVD化は可能と分かりましたが、ひとつだけ、音質面で誤算がありました。パソコンのマザーボードに統合されている音源チップでデジタル変換した音楽は、楽しめるほどの音質にならないのです。演劇のテープも声の質の劣化がひどい。

 いろいろ検討して、USB接続で外部で変換してパソコンに取り込むタイプの音源機器、例えば7000円くらいのSound Blaster Digital Musicでも買わないと実用にならないと考えています。デジタルノイズで溢れるパソコン内部でアナログ音声をデジタル変換するのは確かに辛いでしょう。AD変換器も高級品を買えば数万円のものもありますが、昔からコストパフォーマンス重視の私の性に合いません。

 仕事始めの会合で、これも製造中止になったレーザーディスクソフトを大量に持っている同僚がいて、何とかしたいという話になりました。子どもを撮した8ミリビデオを大量に持っている人も同じ悩みでした。地上デジタル放送のような新機軸が現れる一方で、昔の機械はケアできなければ捨てられるのですが、思い出に満ちたコンテンツはそう簡単に捨てられない。VHSテープからDVDに変換できるタイプのDVDレコーダーの人気が高いのも、こういう事情があるためだと思います。

 昨年からDVDレコーダーが大いに売れていますが、こうした録画したい放題の時代も長くは続かないことは、今回の本文を読まれたら感じ取れるでしょう。デジタル化をきっかけに規制強化に走ろうと関係業界は狙っているからです。しかし、米国では多少、事情が違っていて「後藤貴子の米国ハイテク事情」の「■なぜか日本よりゆるいアメリカのデジタルTVコピー規制■」に詳しいので、参照してください。欧米では既にデジタル放送が始まっていても、ハイビジョンが話題にもならない点で日本と大いに違っています。

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