血液型性格分類とメディアリテラシー [ブログ時評02]

 血液型による性格判断を扱うテレビ番組に行き過ぎがあり、放送倫理・番組向上機構(BPO)が「いじめや就職差別を生んでいる」との抗議をもとに民放各社に慎重な対応を求める――11月末に流れたニュースをきっかけに、12月に入っても多くのブログで議論がされている。性格から考えて娘の血液型に納得がいかず、再検査したお母さんとか実に様々。

 ABO式血液型による性格分類は、日本人のかなりが無意識に信じている面があって、ブログ上でも肯定派と批判派とに分かれる。いちいち数える訳にいかないと思っていたら、東工大奥村研が開発、提供している「blogWatcher」に参考になる機能を見つけた。キーワードの評判情報、つまり好悪の表現がブログ上に現れた数をカウントし、時系列グラフにしてくれる。ここに「血液型」を入れて調べたのが左のグラフだ。赤がポジティブ、青がネガティブな表現が現れた数である。検索の仕組みを考えると直ちに赤が肯定派、青が批判派にはならないものの、1ヶ月で6回も血液型を巡る特集番組があった10月がポジティブのピークで、11月になると急落しネガティブが上回るようになる。

 昭和初期の古川竹二による「血液型と気質に関する研究」が血液型性格分類のもとになっており、中でもB型は「他人の目を気にせず、常識はずれの行動をする」との俗説がまかり通る。「就職試験の面接担当者がB型と聞いて露骨な差別をし、それ以後はまともな質問をしなかった」などの訴えが、この問題を研究している岡山大の心理学者のウェブに寄せられている。

 11月27日から5回連続で「AB型,B型の皆さん!立ち上がりましょう!!」を書いた「宇多津日記」あたりが批判派の急先鋒。歴史や研究を述べる3回目が「第二次大戦後ひとたび息をひそめていた血液型と性格をめぐる話が復活したきっかけは、1971年、姉が古川の教え子であった能見正比古の『血液型でわかる相性』(ISBN 4413011015) 以下一連の著作であった。能見の著作には著名人の血液型リストがしばしば掲載されており、それが主張に説得力を持たせることになったものと考えられる」と、血液型性格分類が力を得るようになったのは意外に古くないことを紹介している。

 自分が大学1年のときに取った心理学授業で経験したエピソードで、性格判断がいい加減か説明しているのが「quasi recitativo」の「マスコミの害悪:血液型番組」

 「担当教授も当然同様でそれを示す為にある実験を毎年行っている。それは、教授が何型に見えるか、ということを受講者(約200人)にアンケートをとるのである」「果たして結果はというと、A型と答えた人約4割、O型約3割、B型約2割、AB型約1割と、日本人の血液型分布とほぼ同じ結果になった。教授の話によると、毎年だいたいこれに似た傾向になるとのこと」。学生が書いた判断理由は自分の血液型をもとに教授が似ているかどうか考え、似ていなければ俗説を援用して別の血液型にするパターンだそうだ。200人という母数は統計をとるには結構、有効な数であり、毎年、人口比と同じ結果になるのなら性格判断は効いていないことを示せる。

 もっと知りたければ、「ケータイ絵日記」が両派の専門家の論説などへの「血液型性格分析と疑似科学 リンク集&コメント 」を作ってくれている。肯定派なら性格への質問から血液型を当てる趣向のサイトもある。私の場合は確率最下位が正しい型だったが、ある程度、血液型性格説が頭に刷り込まれていると無意識に俗説に合った答えをしてしまう可能性もある。自分でそう信じ込むのは強い。ただし、この血液型ステレオタイプも8年間に4回約3100人ずつの大規模な調査にかけると、ほぼ見えなくなることがリンク先の研究紹介で述べられている。(もっとも研究者達は今後の研究で何か微細な差が現れる可能性までは否定しない)

 日本人の情報の受け止め方をメディアリテラシーの面でも考えている「夏のひこうき雲」の「血液型と星座と疑似科学、統計の『ウソ』、情報リテラシー」は徳島県警の「星座別に見た交通事故の特徴」を見つけて疑問を投げる。「星座ごとにあきらかに事故件数に違いがあるように見えるけど、星座ごとの人数(人口)の違いが計算に入ってない」「『どの星座の人は事故を起こしにくい』とまで書いていないけど、『時間帯別』『曜日別』『事故類型別』『違反別(第1当事者)』とそれぞれ星座別にさぞ意味があるかのように、詳しく表を作っているのはどういう意味があるのだろう」。例えば事故件数が一番多い「うお座」は金曜が要注意となっている。千件余りしかない交通死亡事故を12の星座別に分け、曜日で見ているのだ。このサンプル数で何かを言うのは辛い。

 それでも数字として示されると納得してしまうのは、問題になっている血液型特集番組でも同じ。特にテレビでは次から次に情報が流れて行くから、数字の意味を吟味する余裕が少ない。血液型別男女の相性ランクなど不思議としか言えないものにも、結果だけ飛びつく人が多い。メディアリテラシーの面から、もう少し突っ込んで血液型に切り込んでくれるブログがあったらと感じたが、残念ながら見つけられなかった。

 [寄せられた情報での追加]

 徳島県警の「星座別に見た交通事故の特徴」について、「偉そうな日記」が統計学上で有意差があるか検定をしていた。「最高速度違反の違反者が189人いて、牡牛座や魚座で21人(11.11%)、乙女座では9人(4.76%)というのを調べてみる」。危険率を1%、あるいは5%としても「この程度では星座毎に違反者にバラツキがあるとはいえない」との結論を出している。

 また、血液型性格分類への入れ込みぶりが尋常でないと思わせるデータがある。

 「憂鬱なプログラマによるオブジェクト指向日記」の「バカだから血液型性格判断を信じているわけではない」は超常現象について「菊地聡(信州大学人文学部助教授)が関西の国立大学の学生を対象に調査を行った結果」を紹介している。血液型と性格の関連を9.7%が「確かに実在」、31.7%が「どちらかと言えば実在」と答えているという。「国立大学の学生だから、無知で頭が悪い、というわけではない。中にはいるかもしれないが、平均すれば標準以上だろう。それでも4割の人は『血液型と性格の関連』を肯定的にとらえている」となる。

 血液型への信仰を「無知だから」と言って改めさせるのは、確かに難しそうである。それでもマスメディアが悪のりして広めたものだ。タバコの健康に関する注意書き表示以上に歯止めを強化して、歯車を戻す方法が全く考えられないものではないと思うのだが。