時評「勝った以上は『改革の党』にさせよう」

 衆院解散からあまり休めず、投開票日は2時間仮眠のほぼ徹夜、今日は思い切り寝ていました。ネット上では新聞社内の話をしない原則にしていますが、今回、私が見たこと、考えたことを説明するために出来る範囲で緩和します。

 新聞社には世論調査部というセクションがあります。ふだんなら一般的な世論調査もありますが、選挙の際には「情勢調査」、つまりどの党、どの候補者が、強いのか、弱いのか、選挙情勢を世論調査データをベースに過去に蓄積した統計データを駆使して評価する仕事をします。公選法で人気投票は禁止されていますし、生の支持率が実際の得票状況を反映しないことも広く知られていることです。各メディアの情勢調査が公表されれば、それを見た有権者が投票行動を変える可能性もあります。いわゆるアナウンス効果です。しかしながら、その効果まで織り込んで、「まだされていない投票結果を予測してしまうのが情勢調査である」との建前になっています。

 数日先に選挙で延期していた異動があり、それまでは「世論調査部兼務」になっていて、今回総選挙でもこれが大きな仕事でした。投開票日の1週間くらい前に出た情勢報道を覚えていらっしゃる方も多いでしょう。「自民優位、民主劣勢」は共通していても、当選者数の予想は多くは外れでしたね。無理も無いことなのです。長年蓄積されてきたデータと違う行動を、有権者が採ってしまったからです。

 何が一番違うか、それは有権者一人一人が自分なりに考えて行動したことでしょう。情勢調査のための世論調査を実施すると、選挙期間中、ある時点の有権者の意識模様が選挙区ごとに切り出されます。これが投票日までほぼ保存されるとの前提で、これから起きることを推定します。その選挙区の雰囲気のようなものが出来ていて、有権者の行動はそれに影響されていくのです。詳しく説明することは社外秘に触れるので出来ませんが、今回の総選挙ではこの前提そのものが崩壊しました。意識模様がどんどん変化し、投票日に向かってダイナミックに自民優位に変化していくことを生データから読み取ったときは、本当に愕然としました。自民300議席もと直感しました。

 調査時点から後で投票先を決める人が自分で考えてみると、小泉首相が言っていることの方が、民主党の主張より、はるかに意味がある――これに尽きるでしょう。今日の読売新聞朝刊「有識者に聞く 衆院選座談会」(注:これもよくある、ネット上には公開されない新聞のコンテンツのひとつです)宮沢喜一元首相がこう言っています。「小泉さんは、演出、演技を徹頭徹尾よくやった。郵政民営化という、大して重大と思えない問題を『(焦点を絞った)シングル・イシュー』にして国民投票のようなことをやった。自分の政治に対する考え方に従って思った通りにやってみたということでしょう」。これに応えて渡辺正太郎氏は「有権者に『これは本当かもしれない。これなら政治決定に参画しよう』と思わせた」「今まで政治にそれほど影響力がない、あるいは無関心だった人を政治の舞台に引き連れてきた。これから2年ぐらいは政治の季節になるのではないか」と指摘しています。

 従来の自民党選挙ならあり得なかった、地元と無縁の公募した落下傘候補が各地で、1ヶ月ほどの運動なのに地付きの民主候補を撃破してしまいました。こうして自民党衆院議員296人中、最大「派閥」になった無派閥88人の多くが「小泉チルドレン」でできています。「改革の党」として勝った以上は、この人たちにまずは気持ちよく働かせるべきです。年次を無視して閣僚になる人も出そうです。「次の総選挙までたっぷり4年ある」と言う方もいますが、再来年夏の参院選だって小選挙区同然です。民意の動かし方を知った有権者が失望して逆に動けば、底なしの大敗だってあります。それに今回の選挙での動き、今後求められる改革は、自民党の従来型支持基盤を壊す方向にあるのは明白です。小泉後継とも目される方たちが超大勝に慄然としているのは当たり前のことなのです。