世界の原子力開発に大きな流動要因 [ブログ時評47]

 原子力発電の行方を左右しそうな、これまでは考えられなかったニュースが立て続けに流れている。分かりやすい方から並べると、商業用原発として世界で最も普及している加圧水型原子炉(PWR)の主力メーカー、米ウェスチングハウス社(WH)を対立する沸騰水型炉(BWR)メーカーの東芝が買収に成功した。PWR陣営の三菱重工を振り切るために、当初予想された倍以上、6400億円の高価な買い物に踏み切った。「日本は原子力輸出大国を目指すのか」が「日本は非核三原則で核兵器はつくらないと世界に約束しているが、国防政策とも関連する原子力利用を海外企業と海外で展開するうちに、核開発に巻き込まれる可能性はないのか」と心配する。

 次に、米国がこれまで否定していた核燃料再処理路線に転じた。しかも外国に核燃料を提供、その使用済み燃料を受け入れて、生成しているプルトニウムを原爆に転用できないよう再処理して戻すという。さらにロシアは、米国が核燃料を受け入れない反米国家の使用済み核燃料も再処理する構想を唱えた。「核拡散を防止する核燃料再処理のアメリカ・ロシアの取り組み」をご覧いただきたい。核燃料再処理への扉が一気に広がるのだが、日本は自前の再処理工場を持ち、米国の枠組みには入らない。日本だけ特別扱いされ、大量のプルトニウムを使っていることへの不満が表面化するリスクも生まれる。

 三番目は予想の範囲内とは言え、高速増殖炉に関する早すぎる決定である。原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の事故と改造で停滞している高速増殖炉の開発をめぐり、経済産業省資源エネルギー庁は2030年ごろに設置予定の実証炉を、国と電力会社など民間とで建設費を分担する方針を固めた。70万キロワット級で軽水炉原発の2倍、3000億円程度になると想定、官民で折半する構想だ。事故から10年の放置を経て、もんじゅが2005年9月にナトリウム漏れ対策の改造に着手したばかりである。工事が終わるのにまだ1年以上必要で、運転再開しても無事に動くのか、あてさえない。

 「しばらくは要らない、高速増殖炉」が「数年前の答申で、プルサーマル計画はウランの使い捨てよりも高額になるという結果がすでに出ている。にもかかわらず、失敗の連続だった“もんじゅ”の次を作ろうと考えるのは、裏があるようにしか思えないのだが」と指摘している。これが一般市民感覚の疑念だと思う。

 背景にあるのが中国で着々と進む高速増殖炉開発だろう。2005年春に開かれた国際ワークショップ「燃料サイクル研究開発および高速増殖炉開発」で中国側は実験炉を2008年に臨界へ、原型炉は2020年の完成を目指すと発表している。「中国の高速炉サイクル開発の現状と展望」によると、実験炉CFERは2万キロワット。臨界の2008年に北京五輪があり、一種の国威発揚として五輪への電力供給が念頭にあるとみられる。60万キロワットの原型炉「CPFRは、15年計画(2006年から20年)の国の重点事業とされ、2020年の完成を目指している」。中国の原発は昨年春段階で11基1000万キロワットが運転ないしは試運転中。2020年には総出力4000万キロワットの原発を持つと想定している。100万キロワット級なら40基であり、計算上は高速増殖炉に使用済み核燃料から十分にプルトニウムを供給できる。

 ひとつ危惧がある。中国の高速炉は地震の心配が無いロシアの設計を引き継いだタンク型(プール型)であり、耐震性に難点を持つ。最近の環境問題噴出が示すように、地震国である中国なのにその配慮をする余裕を持つまい。一次冷却系は軽水炉の水と違い、液体金属ナトリウムで満たされ、危険性は段違いだ。耐震性ゆえ日本は「もんじゅ」に、「パイプのお化け」とも呼ばれた長い配管を引き回すループ型を選んだが、造ってみると6000億円近くに上り、非常に高コストになった。日本もタンク型とループ型の折衷的な形態にしよう、あるいは実証炉はいきなりタンク型でとの声さえあった。「早すぎる決定」に、日本も愚かな選択に進まないか不安を持つ。