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メタボリック症候群を冷静に眺めよう [ブログ時評64] (2006/09/18)

(「ブログ時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)という異様な言葉が急に市民権を得た。男性なら、へそ周りで測った腹囲が85センチあるかどうかが分かれ目になり、ウエストを気にするお父さん達が増えたが、この85センチは中高年男性の平均値なのだ。マスメディアには旬のキーワードに飛びつく習性があるので、関連ニュースが次から次に流されるようになった。目新しいところで読売新聞9月16日「メタボリック症候群、胃がんのリスクも高まる…東大」あたり。諸悪の源はここに発すかのよう……。厚生労働省は医療費削減の決め手と、健康診断結果を踏まえてする保健指導を、内臓脂肪症候群の指標をてこに「相談型」から「介入型」へ、2008年度から転換する方針を打ち出している。

 2005年4月に診断の日本基準が日本内科学会総会で発表されたときから異論は出ていた。最近では9月4日の日経新聞オピニオン面が「小太りこそ健康の証し 『メタボリック』基準緩和を」を掲載した。これを読んだ「メタボリック・シンドローム・フォローアップ」(日々是感謝)は発見と喜ぶ。「人間総合科学大学教授・藤田紘一郎氏の解説によると、日本の成人男子でウエスト85センチ以上という基準値は”厳しすぎる”とのこと。なんと米国の基準は男子で103センチ以上らしいのです。氏によると、太りすぎが重大な病気の引き金になることはたしかですが、統計的にはやや肥満気味の人の方が、やせた人よりもむしろ長寿であることがわかっている」「85センチを超えていたとしても、過度に戦々恐々とするのは体によくないですし、仮に85センチを下回っていたとしても、安心できないことだってあるということなのでしょう」

 日本の診断基準には、世界の基準に比べて特異な点がある。ウエストの基準値が男性85センチ、女性90センチと女性が男性を上回る唯一の基準だ。米国なら男性103センチ、女性89センチ、中国は男性90センチ、女性80センチである。

 これについて興味深い議論が日経メディカルブログの、飛岡宏の「開業医身辺雑記」で進行している。詳しくは読者登録をして読んでいただきたいが、「メタボリックシンドロームはねつ造か?(下)」から引用する。東海大の大櫛陽一教授からのメッセージは「内臓脂肪面積は男女を混ぜて求めているのに、そこから求められた内臓脂肪面積を使ってウエストを求めるときは、男女別に分析がされている。この段階で男性のウエストは女性の影響で少なめになり、女性のウエストは男性の影響で大きめになる。これは、データ数が少なすぎて男女別にすると内臓脂肪面積が求められなかったか、男性のウエストを少なめにするための『ねつ造』かである」などと、日本基準を決めた手法に問題があったことを具体的に指摘している。関心を待たれたら、専門的ながらコメント欄での議論も参照してほしい。

 ウエスト基準を算出した危険因子のひとつ総コレステロール上限値(ミリグラム/血液1デシリットル中)が日本は「220」と、世界各国の「240〜270」に比べて大幅に低く設定されていることにも疑問が持たれている。「コレステロールやや高めが長生き?」(読売新聞2005年2月20日)が大阪府守口市での総コレステロール値と死亡率の相関をグラフにしている。その「220」が最も長生きとも言え、さらに高くても死亡率は急増しない。大櫛教授はこうしたデータを生かして、男女別、年齢別に高コレステロール基準値を変えることを提唱している。閉経後の中高年女性の過半は「220」を越えるから、無用にコレステロール低下剤を処方されている実態がある。

 メタボリック症候群予防のため「フィットネスクラブの活用を」とまで聞くとさらに疑いたくなる。「メタボリックシンドローム」(antiwarnowar)の批判も理解されよう。「今日の健康ブームにあわせながら、医療改悪の動向と密接に関係しているのではないか」「医療費抑制はいまの改悪だけで間にあうはずもないから、自己責任で健康管理をせよ、というキャンペーンである」「ほとんどの労働者にとって、運動に励めというのは時間的にも金銭的にも困難な話。まずは、そういうゆとりを人びとに持たせること。そして、粗悪な外食産業を助長させた責任をとること。人びとの不安を煽る前に、やるべきことは、たくさんあるだろう」

 福島県郡山市「”Koriyama Point”で5年以内死亡率がわかる」は市民のデータ蓄積から、個人別の5年以内の死亡率を計算出来るページだ。メタボリック・シンドロームの診断基準と比べて、自分の日常生活をどうコントロールすれば長生き出来るか――見えやすいと思う。



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