米中間選結果と余波に若干ならぬ異議 [ブログ時評68]
米国の中間選挙は、12年ぶりに民主党が上下両院を制して終わった。結果としてラムズフェルド国防長官の更迭に至ったように、日本人の感覚なら泥沼化が明らかなイラク情勢が断然、第一要因のはずが、出口調査の分析では政治腐敗・スキャンダルに重きを置いた有権者がさらに多かった。この事実だけ見ても何か異質さを感じた。日本の新聞各紙や放送メディアの伝える解説類は正直なところ琴線に触れてこないので、今回はインターネットの世界から、この選挙とその余波、将来予測へ異議ありとする声を集めてみた。
最初は米国在住の意見から。「アメリカ中間選挙〜遅すぎたイラク政策への不信任」(ワシントン通信 2.1〜地方公務員から転身した国際公務員のblog)の意見は納得しやすいものだ。「アメリカ国民はもっと早くイラク問題の重大さに気づくべきでした。全く遅すぎますよ。2年前の大統領選挙ではイラク問題が争点になりきれず、同性同士の結婚や妊娠中絶などという問題がより重要な争点になっていましたが、あれも理解に苦しみました。ハッキリ言って、昨日の選挙結果は2年遅いのです」。「ブッシュVSケリー」はほとんど印象に残っていないことを思い起こす。そのコメント欄に「アメリカは、無辜の人を内外で多く殺しすぎました。過ぎるも何も、一人もあってはならないことです。人に憎しみを植え付けることの恐ろしさを理解できない人が国の政治を執ると、さらなる苦悩を増すだけです」(銀)とあるが、米国有権者の関心が死んだ米兵の数にあって、桁違いに多いイラク人死者に向いていないことに大きな齟齬を感じる。
日本のブログに米国流保守思想を根付かせたいと考えている、米国人による「保守思想 Conservatism」の「なぜ、民主党が成功したのか?」は民主党の選挙戦略は三つあったが、それがメディアで報道されることがなかったと主張している。例えば「場合によっては共和党候補より保守的な候補を対抗馬に据えた。メディアの注目は元イラク軍人民主党候補に行ったが、このような候補のほとんどは負けた。勝ったのは”Social Conservative"的な民主党員だ。中絶には反対。鉄砲所持は賛成。教会などで中心人物といえる候補だ。また、保守的地域で以前”過激”と受け取られていた候補のほとんどが予備選の段階で消えた」。この結果、当選回数の多い民主党幹部は従来型のリベラル思想なのに、新人議員は保守系の地盤を持つと指摘する。筆者MikeRossTky氏は「国が保守化する以上、どんどん両党が保守化するのは当たり前だと私は思う。リベラルは大学や都市部でしか受けない」と述べる。
私自身ですべて検証することは出来ないが、ネット上で調べられる状況とかなり符合しているようだ。ヒラリー・クリントン上院議員がリベラルから中道にポジションを移して、なお、2年後の大統領選勝利が容易に見えてこない原因はその辺りにもあるのではないか。
国内に目を転じて批判しているのが「調子のいい連中はいつでも調子がいい=『イラク戦争』をめぐる痛みなき転向」(阿部社会学ラボ・IFSA通信)である。「日本の識者やマスコミは、いまや『イラク戦争失敗』の現実を前提としてすべての話をする。その怪しげな前提自体を不問に付したまま。◇『イラク戦争失敗=悪=それを批判する米国民は当然の行為をしている』。とんでもない。米国に言寄せ、そう思う人間の主体がすっぽりと抜け落ちているではないか」「その主体とは何か。◇戦争を仕掛けた側のブッシュらの主体は別にして、(1)イラク侵攻を圧倒的に支持した米国民とマスメディア。(2)同様に、消極的賛成ながらも支持し続けた日本国民とマスメディア(3)敢然と支持した、政治的ニュートラルを装う御用学者・御用評論家・テレビコメンテーター(4)断固支持し続けた、コイズミをはじめとする日本政府。◇要は、イラク戦争(というよりイラク侵略戦争)にノンと言い切った側の方が、圧倒的に少なかったということだ」
ここで個別には紹介はしないが、数多く読んだ日本ブログの庶民感覚はこう――イラク政策を転換するのは結構だが、それなら「ごめんなさい、間違ってました」と率直に謝りましょうよ。もちろん、日本政府も含めての話だ。
イラク政策を転換しても、米国主導でうまく行くと思うのは米国でも一部の人だけだろう。軍事ジャーナリスト・神浦元彰さんは「最新情報」(11月9日)の中で、重大かつ悲観的な中東情勢が生まれうると指摘している。
「アメリカ軍がイラクから全面撤退の姿勢を見せれば、イラクにいる親米的なイラク人は国外に逃亡をするか殺される。イラクに独自の治安部隊が育っていない以上、それからのイラクを支配するのは隣国イランと強く結びついたシーア派武装勢力である。すなわちイラク南部とイランを合わせた中東の中心地域にシーア派の巨大勢力圏が誕生する。これにはイスラム穏健派(親米)と呼ばれるサウジ、ヨルダン、エジプトなどに強い恐怖心を与えるだろう。同時に新しい中東戦争の危機が誕生する」「逆にイランにとっては、新しく誕生した広大なシーア派支配地域を、軍事上防衛することは不可能に近い。そこでイランはウラン濃縮で核武装を考えているような気がしてきた。イランにとってはイラクから駐留米軍が敗退することは予測済みで、イランの核兵器開発はそのための準備(抑止力)という推測が成り立つ」
イラクの今後は本物の国際社会の管理下にでも置くしかないと思う。だが、ブッシュ政権に余力がある間に全面敗北を認めるはずもなく、ベトナム戦争のように、どうにもならなくなって放置して逃げ出す結末しかないのだろうか。日本と違って、米国では議会が国家予算編成権を持ち、そこを握った民主党に何が出来るか。本質的な政策転換なしに2年後の大統領選まで待てば、犠牲者は恐ろしいほど膨れあがるだろう。フセイン元大統領死刑判決の際に、ある新聞に出たイラク市民の談話「フセイン時代には殺されるには何か理由があったが、今は何の理由もなく人が死んでいく」を見て、深い絶望感を共有した。
最初は米国在住の意見から。「アメリカ中間選挙〜遅すぎたイラク政策への不信任」(ワシントン通信 2.1〜地方公務員から転身した国際公務員のblog)の意見は納得しやすいものだ。「アメリカ国民はもっと早くイラク問題の重大さに気づくべきでした。全く遅すぎますよ。2年前の大統領選挙ではイラク問題が争点になりきれず、同性同士の結婚や妊娠中絶などという問題がより重要な争点になっていましたが、あれも理解に苦しみました。ハッキリ言って、昨日の選挙結果は2年遅いのです」。「ブッシュVSケリー」はほとんど印象に残っていないことを思い起こす。そのコメント欄に「アメリカは、無辜の人を内外で多く殺しすぎました。過ぎるも何も、一人もあってはならないことです。人に憎しみを植え付けることの恐ろしさを理解できない人が国の政治を執ると、さらなる苦悩を増すだけです」(銀)とあるが、米国有権者の関心が死んだ米兵の数にあって、桁違いに多いイラク人死者に向いていないことに大きな齟齬を感じる。
日本のブログに米国流保守思想を根付かせたいと考えている、米国人による「保守思想 Conservatism」の「なぜ、民主党が成功したのか?」は民主党の選挙戦略は三つあったが、それがメディアで報道されることがなかったと主張している。例えば「場合によっては共和党候補より保守的な候補を対抗馬に据えた。メディアの注目は元イラク軍人民主党候補に行ったが、このような候補のほとんどは負けた。勝ったのは”Social Conservative"的な民主党員だ。中絶には反対。鉄砲所持は賛成。教会などで中心人物といえる候補だ。また、保守的地域で以前”過激”と受け取られていた候補のほとんどが予備選の段階で消えた」。この結果、当選回数の多い民主党幹部は従来型のリベラル思想なのに、新人議員は保守系の地盤を持つと指摘する。筆者MikeRossTky氏は「国が保守化する以上、どんどん両党が保守化するのは当たり前だと私は思う。リベラルは大学や都市部でしか受けない」と述べる。
私自身ですべて検証することは出来ないが、ネット上で調べられる状況とかなり符合しているようだ。ヒラリー・クリントン上院議員がリベラルから中道にポジションを移して、なお、2年後の大統領選勝利が容易に見えてこない原因はその辺りにもあるのではないか。
国内に目を転じて批判しているのが「調子のいい連中はいつでも調子がいい=『イラク戦争』をめぐる痛みなき転向」(阿部社会学ラボ・IFSA通信)である。「日本の識者やマスコミは、いまや『イラク戦争失敗』の現実を前提としてすべての話をする。その怪しげな前提自体を不問に付したまま。◇『イラク戦争失敗=悪=それを批判する米国民は当然の行為をしている』。とんでもない。米国に言寄せ、そう思う人間の主体がすっぽりと抜け落ちているではないか」「その主体とは何か。◇戦争を仕掛けた側のブッシュらの主体は別にして、(1)イラク侵攻を圧倒的に支持した米国民とマスメディア。(2)同様に、消極的賛成ながらも支持し続けた日本国民とマスメディア(3)敢然と支持した、政治的ニュートラルを装う御用学者・御用評論家・テレビコメンテーター(4)断固支持し続けた、コイズミをはじめとする日本政府。◇要は、イラク戦争(というよりイラク侵略戦争)にノンと言い切った側の方が、圧倒的に少なかったということだ」
ここで個別には紹介はしないが、数多く読んだ日本ブログの庶民感覚はこう――イラク政策を転換するのは結構だが、それなら「ごめんなさい、間違ってました」と率直に謝りましょうよ。もちろん、日本政府も含めての話だ。
イラク政策を転換しても、米国主導でうまく行くと思うのは米国でも一部の人だけだろう。軍事ジャーナリスト・神浦元彰さんは「最新情報」(11月9日)の中で、重大かつ悲観的な中東情勢が生まれうると指摘している。
「アメリカ軍がイラクから全面撤退の姿勢を見せれば、イラクにいる親米的なイラク人は国外に逃亡をするか殺される。イラクに独自の治安部隊が育っていない以上、それからのイラクを支配するのは隣国イランと強く結びついたシーア派武装勢力である。すなわちイラク南部とイランを合わせた中東の中心地域にシーア派の巨大勢力圏が誕生する。これにはイスラム穏健派(親米)と呼ばれるサウジ、ヨルダン、エジプトなどに強い恐怖心を与えるだろう。同時に新しい中東戦争の危機が誕生する」「逆にイランにとっては、新しく誕生した広大なシーア派支配地域を、軍事上防衛することは不可能に近い。そこでイランはウラン濃縮で核武装を考えているような気がしてきた。イランにとってはイラクから駐留米軍が敗退することは予測済みで、イランの核兵器開発はそのための準備(抑止力)という推測が成り立つ」
イラクの今後は本物の国際社会の管理下にでも置くしかないと思う。だが、ブッシュ政権に余力がある間に全面敗北を認めるはずもなく、ベトナム戦争のように、どうにもならなくなって放置して逃げ出す結末しかないのだろうか。日本と違って、米国では議会が国家予算編成権を持ち、そこを握った民主党に何が出来るか。本質的な政策転換なしに2年後の大統領選まで待てば、犠牲者は恐ろしいほど膨れあがるだろう。フセイン元大統領死刑判決の際に、ある新聞に出たイラク市民の談話「フセイン時代には殺されるには何か理由があったが、今は何の理由もなく人が死んでいく」を見て、深い絶望感を共有した。