第153回「科学をなめている『あるある大事典』捏造」
毎日新聞が28日朝刊トップに「『あるある』98年も捏造 『レタスで快眠』実験改ざん」を出しました。納豆ダイエットのケースでは血液採取しても測定をしなかった――などの捏造でしたが、今度は千葉科学大の長村洋一教授(健康食品学)に、マウスを使った実験を依頼、ジュース状にしたレタスを与えた群と同量の水を与えた群を比較したのですが、ほとんど変化が起きなかったそうです。それなのに実験途中でおとなしくしていたマウスの映像を使って「レタス汁を飲んだマウスは、眠ってしまった!」とテロップを流したとのこと。番組開始が96年10月ですから、初期から捏造を繰り返していたことが証明されました。
「発掘!あるある大事典」のホームページは既に閉鎖されているが、米国にあるNPO「Internet Archive」に当時から「指定されたページは存在しません。」に変わった現在まで収録されています。これが繰り返し収集されている「そのページのインデックス」です。インターネット時代、そう簡単に「過去を消せない」仕組みになった訳です。98年10月の「発掘!あるある大事典 第102回『快眠』」から始まって、「3. 眠りを誘う…究極の食材 ついに登場!」が問題のページです。文字化けする方はブラウザの「表示」→「エンコード」で「日本語(自動選択)」に設定してください。
これを見るとネタ元は、イギリスの絵本『ピーターラビット』で「『レタスを食べ過ぎると催眠薬のように効く…』(プロプシーのこどもたち)とあり、お話の中のウサギたちは、そのせいで眠り込んでしまったという」。「うさぎ:レタスを食べて2時間後眠った」「犬:レタスジュースを飲んで1時間半後、トロンとした」「猿:レタスジュースを飲んで2時間後、眠ってしまった」がまず掲げられています。「眠りを誘う成分ラクッコピコリン」がレタス100グラムに20ミリグラム含まれているからだと説明されます。
さらにマウスの実験です。「一方にはさまざまなレタスの汁、他方には水を与えたマウスで比較をしてみると、水を飲んだマウス以外は大人しくなり、30分以内に眠ってしまった」と実験事実に反した報告をし、「即効性があります。レタス100g〜200gで静かな眠りにつける」(田島眞教授/実践女子大学)とのコメントが付いています。田島教授は毎日新聞に「一般論で話した。マウスで実験したとは知らなかった」と証言しています。
ネット上を探索して「質問日記2」―「レタスのラコックピコリン???」に行き当たりました。筆者はテレビ番組関係者からたびたび質問、問い合わせを受ける、野菜関係の研究者のようです。「科学文献のデータベースにも『ラクッコピコリン』などという物質は出てきません。レタスには『lactucopicrin』(ラクチュコピクリン)と呼ばれる苦味成分が含まれますが、これを健康関連番組で書き間違えたのでしょう」「『ラクッコピコリンが100g中20mg含まれる』ように書かれています。普通の人がこれを読むと、レタスの『生』の葉100g(約1人前)に20mg含まれるように思います。実際は元の文献を調べると、乾燥した葉100g中の量で記載されています。実際に100gの葉を食べても、摂れるのは1mg程度ということになります」
ネット上には、レタスに催眠効果があると無条件に書いているブログが多数あります。「ラクチュコピクリンの睡眠効果について、元になる文献を調べておりますがみつかりません。もし、本当にないのなら、科学的実証よりも先にマスコミの発したデマがインターネットで増幅されてあたかも真理のように流布していることになり、ゆゆしき事態であると思われます」と警鐘を鳴らしていらっしゃいます。
私も前に脳内物質の連載を書いたことがあり、随分経ってからテレビ関係の会社から問い合わせを受けたことがあります。古いノートを引っ張り出すのは無理なので、「こういう風にすればJOISなど科学文献データベースから引き出せます」と、お教えしたのですが、相手はそうしたデータベースの存在すら知らないようでしたし、原著論文を読む力も無いとお見受けしました。今回のケースでもインターネット検索は使っても、科学文献データベースには当たることすら考えていない――それでいて絵本『ピーターラビット』をヒントにレタスの催眠効果を証明しようと企画――実験はしても不都合な結果は改ざん――一般論を語る研究者を見つけて権威付ける――では、科学をなめているとしか思えません。
科学的にはどう考えるのが正解か、日本植物生理学会の「質問コーナー」で「質問:レタスの不眠症改善能について」に行き着きました。JSPPサイエンスアドバイザーの今関英雅氏が「18世紀末にアメリカの医師がレタスの乳液を乾燥させたものを阿片の代用物として処方しています。動物実験ではレタス乳液乾燥物に強い催眠作用をもつことも知られるようになりました」「今日では、レタス乳液やその薬効成分よりもレタスの煎じ汁を『睡眠障害』『不安症状』『小児の神経過敏症』などの療法として用いているようです」とまとめた上で、「『レタスをたくさん食べたら不眠症にも不安症状にも効果がありますよ』などと言うのは間違いだと思います。『ラクッコピクリン』の話を信じてその効果が出るほどレタスを食べるにはどの位のレタスを毎日食べる必要があるのか計算する気にもなりませんが、そんなことをしたらそれ以外の成分も同時に大量に摂取するわけですから何が起こるか予測できない危険なことです」と指摘されています。
「レタスを200グラム食べたら眠れた」などのブログの記述は、信じることで効果を発揮する「偽薬効果」そのものでしょう。
「発掘!あるある大事典」のホームページは既に閉鎖されているが、米国にあるNPO「Internet Archive」に当時から「指定されたページは存在しません。」に変わった現在まで収録されています。これが繰り返し収集されている「そのページのインデックス」です。インターネット時代、そう簡単に「過去を消せない」仕組みになった訳です。98年10月の「発掘!あるある大事典 第102回『快眠』」から始まって、「3. 眠りを誘う…究極の食材 ついに登場!」が問題のページです。文字化けする方はブラウザの「表示」→「エンコード」で「日本語(自動選択)」に設定してください。
これを見るとネタ元は、イギリスの絵本『ピーターラビット』で「『レタスを食べ過ぎると催眠薬のように効く…』(プロプシーのこどもたち)とあり、お話の中のウサギたちは、そのせいで眠り込んでしまったという」。「うさぎ:レタスを食べて2時間後眠った」「犬:レタスジュースを飲んで1時間半後、トロンとした」「猿:レタスジュースを飲んで2時間後、眠ってしまった」がまず掲げられています。「眠りを誘う成分ラクッコピコリン」がレタス100グラムに20ミリグラム含まれているからだと説明されます。
さらにマウスの実験です。「一方にはさまざまなレタスの汁、他方には水を与えたマウスで比較をしてみると、水を飲んだマウス以外は大人しくなり、30分以内に眠ってしまった」と実験事実に反した報告をし、「即効性があります。レタス100g〜200gで静かな眠りにつける」(田島眞教授/実践女子大学)とのコメントが付いています。田島教授は毎日新聞に「一般論で話した。マウスで実験したとは知らなかった」と証言しています。
ネット上を探索して「質問日記2」―「レタスのラコックピコリン???」に行き当たりました。筆者はテレビ番組関係者からたびたび質問、問い合わせを受ける、野菜関係の研究者のようです。「科学文献のデータベースにも『ラクッコピコリン』などという物質は出てきません。レタスには『lactucopicrin』(ラクチュコピクリン)と呼ばれる苦味成分が含まれますが、これを健康関連番組で書き間違えたのでしょう」「『ラクッコピコリンが100g中20mg含まれる』ように書かれています。普通の人がこれを読むと、レタスの『生』の葉100g(約1人前)に20mg含まれるように思います。実際は元の文献を調べると、乾燥した葉100g中の量で記載されています。実際に100gの葉を食べても、摂れるのは1mg程度ということになります」
ネット上には、レタスに催眠効果があると無条件に書いているブログが多数あります。「ラクチュコピクリンの睡眠効果について、元になる文献を調べておりますがみつかりません。もし、本当にないのなら、科学的実証よりも先にマスコミの発したデマがインターネットで増幅されてあたかも真理のように流布していることになり、ゆゆしき事態であると思われます」と警鐘を鳴らしていらっしゃいます。
私も前に脳内物質の連載を書いたことがあり、随分経ってからテレビ関係の会社から問い合わせを受けたことがあります。古いノートを引っ張り出すのは無理なので、「こういう風にすればJOISなど科学文献データベースから引き出せます」と、お教えしたのですが、相手はそうしたデータベースの存在すら知らないようでしたし、原著論文を読む力も無いとお見受けしました。今回のケースでもインターネット検索は使っても、科学文献データベースには当たることすら考えていない――それでいて絵本『ピーターラビット』をヒントにレタスの催眠効果を証明しようと企画――実験はしても不都合な結果は改ざん――一般論を語る研究者を見つけて権威付ける――では、科学をなめているとしか思えません。
科学的にはどう考えるのが正解か、日本植物生理学会の「質問コーナー」で「質問:レタスの不眠症改善能について」に行き着きました。JSPPサイエンスアドバイザーの今関英雅氏が「18世紀末にアメリカの医師がレタスの乳液を乾燥させたものを阿片の代用物として処方しています。動物実験ではレタス乳液乾燥物に強い催眠作用をもつことも知られるようになりました」「今日では、レタス乳液やその薬効成分よりもレタスの煎じ汁を『睡眠障害』『不安症状』『小児の神経過敏症』などの療法として用いているようです」とまとめた上で、「『レタスをたくさん食べたら不眠症にも不安症状にも効果がありますよ』などと言うのは間違いだと思います。『ラクッコピクリン』の話を信じてその効果が出るほどレタスを食べるにはどの位のレタスを毎日食べる必要があるのか計算する気にもなりませんが、そんなことをしたらそれ以外の成分も同時に大量に摂取するわけですから何が起こるか予測できない危険なことです」と指摘されています。
「レタスを200グラム食べたら眠れた」などのブログの記述は、信じることで効果を発揮する「偽薬効果」そのものでしょう。