奇怪、不可解、Windows Vista肥大化 [ブログ時評76]

 1月末の「Windows Vista」発売から1カ月、パソコン売り場からは旧バージョンOS「XP」は消えかけているのに、Vista購入者のブログからは「使い物にならない」「旧バージョンに戻した」などの発言が巻き起こっている。私も新OSに魅力を感じつつも、大学に入る子どものためにはXPパソコンを駆け込み注文したばかり。もともと基本ソフト(OS:Operating System)を数年ごとに改良、新商品として売るのはマイクロソフト社の都合でしかない。今回、これほど肥大化したOSから聞こえてくる誤動作、バグは相当に奇怪であり、「超・複雑化したシステム」への「人知の限界」を感じさせなくもない。

 まず、全体の普及状況。3月7日の記事「インターネットコム株式会社とJR 東海エクスプレスリサーチが行った Windows Vista に関する調査」が「官公庁、自治体、民間企業に勤務する20代から60代の男女330人」に聞いたところ、「自宅 PC の OS が『Windows Vista』と回答したのはわずか0.9%だった。また、勤務先で同 OS が導入されているところは皆無だった」。日本より急速に普及と思われた米国でも意外に緩やかと伝えられる。

 プロ級ではない、普通のパソコン利用者と思わしき方あたりから紹介する。「Vistaはなかなか手ごわい」(水俣の街の片隅から)は「新OSはそれなりに素晴らしいが、あえて言えば、私のような使い方の範囲では改めて新調することもないようだ」「バグもあるようで、私のホームページが誤作動してしまう。インターネット・エキスプローラの問題かもしれないが、前のパソコンでは問題なかったのだから、やはりバグと言うべきなのだろう。ここしばらくはそんな状態が続くだろうから、旧バージョンで確認を取らなければ更新も危ういものになりそう」

 これが3月10日付の記事。旧バージョン機が、まだ側にあれば辛抱ができなくもないが、更新したウェブをダブルチェックしなければならないとは……。

 周辺機器メーカーから出た奇怪な情報で最も気になったのが、キヤノンの「デジタル一眼レフカメラ『EOS-1D』、『EOS-1Ds』をご使用のお客さまへ」で2月28日付。「デジタル一眼レフカメラ『EOS-1D』、『EOS-1Ds』で撮影したTIFF(RAW) 画像データを一定の条件下で回転または編集した場合、オリジナルの画像データが消失することが判明いたしました」とあり、回避方法としてはWindows標準ソフトを使わずに、キヤノンの標準添付ソフトを使うように求めている。

 こうなると、際限がない「特殊」モグラ叩きゲームになると思われそうだが、実は、ごく普通の場面でバグが続出している。

 「Vistaのバグ(その1)ファイル名を変更できない!」(UsefullCode.net)は、ウインドウの大きさとの相対関係でファイルに長い名前を付けてしまうと変更ができなくなり、後でウインドウ内をクリックするとファイルが見えなくなってしまうと報告している。さらに「Vistaのバグ(その2) 残り時間が表示されない!」は「ファイルの移動やコピーに関するバグとして致命的なのは、ファイルをエクスプローラー間でドラッグ・アンド・ドロップした直後にエクスプローラーのウインドウを閉じたときに、移動やコピー操作が勝手にキャンセルされてしまう」「この現象はタイミングの関係なのか、いつも起きるというわけではないため再現するのが難しい」と述べる。

 これまでに取り敢えず修正されたバグは多数あるようだが、そんな機械の気紛れに、実務をしている人間がお付き合いしている暇があるのだろうか。

 NIKKEI_NETの「Vista講座最終回・今夏、今冬、来春…Vistaの本当の買い時は?」は、どうしてVistaが未完成に見えるのかを考えて「ムーアの法則」(CPUなどコンピューターパーツの性能は、18―24カ月ごとに倍になるという、米インテルの共同創業者ゴードン・ムーアの説)を引き合いに出しWindows Vista構想「2000年の登場当初は動作周波数が1.5ギガヘルツだったPentium 4は、2007年に約9ギガヘルツで動作するはずだった。しかし2000年代後半からは、消費電力あたりの性能が重要視されるようになり、現在でも最高クロックは3ギガヘルツ前後に留まっている」。そのために予定された多くの機能が見送られて途中から構想を変更、再開発に至った。「この方針転換がVistaで見受けられる数多くのバグに影響を及ぼしている可能性はありそうだ」とみる。

 こうした専門家たちは、「実用段階」のバグの数々を、お金を払って購入したユーザーの「協力」で潰した挙げ句、1年後くらいには出される改訂版OSをお買い得と考えているようだ。「XP」はパソコンの主記憶メモリーから100MBくらいを占拠してしまうと言われた。「Vista」機では主記憶メモリーが1000MBでも足りないと言われていることから、数百MBを独占してしまうのではないか。これは数億の命令が書かれたシステムがあるのと同じことだ。

 この巨大システムの中で全てが整合して行われる保証をどう取り付けるのか。家庭に入り込んでしまうパソコン――やがては家庭内機器全部の制御も想定されているだけに、「高機能化=複雑化」とは違う道を考える時期に来ているのではないか。