デジタル放送不人気でコピー緩和だが [ブログ時評81]

 2011年のアナログ放送廃止が決まっているのに、地上波デジタル放送の不人気ぶりは隠せない。総務相の諮問機関、情報通信審議会の下部組織は7月、デジタル放送から録画したビデオは1回しか複製を許さないコピーワンス規制を緩和して9回までとする方針を固めた。しかし、実現するとしても既に出回っているDVDレコーダーの多くには適用できず、開発される新製品を買い換えなければならない。

 現行のコピーワンスはコピーを許しているのではなく、ハードディスクに録画したハイビジョン番組をDVDに標準画質に落として焼き付けると、元のハイビジョン番組は自動消滅してしまう。この際にDVDメディアの不良や操作ミスがあって複製が出来なくても消えてしまうため苦情が絶えない。

 「追跡」(gore-gore日記)は家族も見る番組をDVDに移して持ち出してはいけない、現在の不便さをこう書く。「デジタル放送のコピーワンス規制は困ったもので、HDDに新しく録画をするためには、録り溜めしているやつを消化しなければならない。もしDVDにダビングできるのなら自室のPCでゆっくり見れるのに、それができないの。おかげで、家族がTVを見てない時間を縫って見ないといけない。一部の違法コピーするやつらのおかげで一般ユーザーに皺寄せが来るのは、CCCDの時と同じで本当に腹が立つ。それがやっと、9回までのコピーが認められるそうで良かった。しかし、対応機器に買い換えないといけないのか」

 DVDに移すにしても、コピーガードのCPRMがまた不便なのだ。「DVDレコーダーのコピーワンス、何とかならないか!!」(Coffee & Music)が報告する。大阪フィルのコンサートが「デジタルで放映されたわけだが、筆者は生憎デジタルレコーダーを持っておらず、娘に録画を頼んでいた。先日届き、いざ観ようと思ったが残念ながら再生できない。聞いてみるとレコーダーのハードディスクからDVD-Rに焼くのも簡単に出来ず、わざわざCPRM対応のディスクを購入して焼いてくれたそうで、デジタル放送の録画は面倒なことが多いようだ。なんとかパソコンにCPRMディスクの観れるソフトをインストールしたが、なかなか再生しない。なんだかCPRMのキーの照合が必要だそうで、インターネットに接続が必要だとのメッセージ。インターネットに接続すると忘れた頃に再生開始」

 アナログ放送が生きている今、放送の楽しみ方はずっと豊かだ。「コピーワンス見直し案【コピー9回可能へ】」(すごろーのスグブログ−DS)は「録画した番組を保存する時は、わざわざアナログ放送を録画してますよ」「他にも、東芝のRDを使って主題歌部分を切り出して、お歌集にしたり、パソコンに転送して壁紙を切り出したりとか楽しんでますけど、その楽しみって、アナログ放送じゃないとできないです」と、コピーはもちろん編集も加工も出来ないデジタル放送の「規制尽くし」を批判的な目でみる。

 今回の9回コピーへの緩和は、携帯電話やポータブルプレーヤーなどへ1人が3回コピーすると想定、家族3人で9回と計算している。しかし、1時間番組、2時間番組を携帯電話にそのままコピーするのには疑問がある。見どころだけを抜粋して出先でも楽しみたいと考えるのが普通だろう。もともと記憶容量が小さい携帯電話などでは、見たいものが幾つも入らない事態になるのは目に見えている。

 それでもコピー回数だけを増やす今回の緩和について「copy onceからninthへ」(Mac de Life)は「『iPodへの課金問題』に代表される補償金制度と、今回の『DRM問題』に代表されるコピーワンス制度には、音楽業界と映像放送業界の利用者側(消費者)を無視した、行きすぎた著作権主張という同様の背景があるように思われます」と指摘する。「1回しかコピー(実は移動)が出来なければ、録画機器は売れない、DVDなどの媒体も売れない、業界自体が縮小する。反対にコピー制限が無くなれば、DVDの売り上げはアップし、録画機器も売れるとういう、産業界にとっては好循環に突入します。このあたりの自己矛盾暖和処置として『コピーナインス』制度を採用したようですね」

 コピーワンスであっても大容量の次世代DVDなら劣化しないでオリジナルのハイビジョン番組が残せる。ところが、専門家からコピーワンス規制が次世代DVD機器が売れない原因になっているとの見方が出ている。

 映像系エンジニア・アナリストの小寺信良氏はレコーダー市場全体の売れ行き停滞を指摘し「次世代DVDが起爆しない5つの理由」(ITmedia)で「コピーワンスがあるから、ということに加え、コピー回数緩和の方法が決着せず、長引いているところがますます停滞感を産む結果となっている」と分析する。「メディアにテレビ番組を記録することに関して、消費者は泥棒のように扱われているのじゃないのか、という感覚を植え付けられつつあるのだ」「しかも皮肉なことにコピーワンスは、さらにそれより悪いムードを産みつつある。つまり、『別に保存しなくてもいいやぁ』という状態である。それが行き着く先は、『録画してまで見なくていいかぁ』というところだ。それは、高解像度でオリジナルを見るという意味が薄れるということでもある。いくらやってもYouTubeのような動画配信はなくならないし、そこで面白いところだけちょっと見られればそれでいい、とする消費行動が、今まさに生まれようとしている」

 米国ではハイビジョン放送は衛星放送の一部にしかなく、ハイビジョン放送を地上波に広げ、放送にコピーガードを掛けている国は日本しかない。それが放送をオリジナルで見なくてもいいにつながり、録画機器・機材が売れなくなり、ひいては著作権収入の減少に進んでいく道筋が浮かび上がってきたのだ。