第158回「『男も痩せ型』若者変貌と非正規雇用」

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 若い男性が急速に痩(や)せ型に移行している事実を伝える「若い男は体形も生活もオヤジ世代と決別 [ブログ時評84] 」を昨秋に書いてから、ずっと宿題になっていたのが急拡大している非正規雇用との関係を調べることでした。海外から見て特異な対立「太る男とやせる女」構図が終焉を迎えたのには、社会的な必然があったのか、押さえて置かねばなりません。「平成18年版 労働経済の分析」(労働経済白書)の「若年者の就業機会をめぐる問題(若年層における非正規雇用の拡大)」に「第3−(2)−2図 役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員割合(非農林業)」などのデータを見つけることが出来ました。

 話の順番として、まず20代前半男性が年上世代と際立って違う痩せ型に移行したグラフを見ましょう。経済産業省の人体計測データ「size-JPN 2004-2006」調査結果についてにある「今回と前回(1992年〜1994年)の平均値グラフ」から、その一部「BMI」と「臀突囲」を切り出しました。  「ボディマス指数」BMI値は体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割った数値で、肥満・痩せの指標として使います。年上世代でほぼ増大する中、20〜24歳男性だけで急減し、女性の領域に接近しました。身長170cmを想定すると1992〜94年の数値は標準そのもので体重は64kg程度だったのに、最近では61kgまでにも落としたことになります。その結果がヒップ周りでも女性並になったのです。これと男女世代別の非正規労働者の割合変化を比べましょう。  1990〜95年と2005年とを比べると、15〜24歳で非正規の割合が10%から30%近くに跳ね上がっています。25〜34歳も上がっていますがこれほど劇的ではありません。女性に目を転じると15〜24歳で非正規は15%前後が40%にも増え、25〜34歳でも大きな増加です。女性については年上の世代でも非正規雇用化へ大きく変わったわけです。この十年余りを安穏としていたのは、期間を通して太り続けた男性の中高年世代だけだったのです。

 もう一つ、「社会実情データ図録」から「図録▽パート・アルバイト等非正規雇用者比率(年齢別)の推移」を見てください(クリックすると別窓で開きます)。グラフの描き方が上とは違いますが、若い世代での増え方がもっとストレートに出ています。最後の数表を見ると男性15〜24歳で非正規の割合が1995年の23.6%から2005年に44.2%へ、女性の同世代で28.4%から51.5%へ――と、驚くべき数字が紹介されています。総務省にある「年齢階級,雇用形態別雇用者数」とほぼ合致した数字です。

 「太る男とやせる女」構図について、女性側は美容への意識が強すぎて痩身願望に傾いていると理解されてきました。20〜24歳男性にもその願望はあるのでしょうが、雇用の不安定化、将来への不安により生活をタイトにせざるを得ない経済的側面が大きいのではないでしょうか。翻って女性側でも経済的理由が側面にあるから中年世代まで含めてこれほど痩せ続けるのではないか、それなら納得できる気がします。以下に傍証データを集めています。

 農林中央金庫が最近、東京近郊の20代独身男女400名を対象に「『現代の独身20代の食』その実態と意識」というアンケート調査をしています。1カ月の食費は「平均は月に『36,658円』で、日に換算すると『1,222円』。エンゲル係数は30.6%」、最も高い単身男性でも1日1,471円です。全体としてつつましく、節約モードにあるのは間違いないでしょう。カロリー・ダイエットに関心がある男性は18%しかいないといいますから、やはり男性には痩せたい願望はそんなに大きくないのです。

 マクロミルが実施したインターネット調査「若者の生活意識調査 2008」も南関東の20代312人を調べています。8割が貯蓄をしており、9.6%が月平均で10万円を超えます。その目的も65%が「いざという時のために」(複数回答)を選んでいます。現状でお金に余裕がある層でも貯蓄に向かうのです。休日の過ごし方やお酒の飲み方なども控えめで、休みは車でドライブといった昔風の若者像は極めて少数派です。

 「平成18年版 労働経済の分析」の「若年者の就業機会をめぐる問題(経験を積んでも高まらない非正規従業員の年間収入)」は正規雇用では年齢が上がると収入も上がるが、非正規では変わらないか、高齢になると逆に減る姿をグラフ化しています。これほどに非正規雇用が増えた以上、それが集中している若い男性や女性の多数が、将来への不安から食まで含めて消費を控え、身構えてしまうのは当然のことでしょう。