デジタル放送の元凶『B-CAS』に見直し論議 [BM時評]

 「ダビング10」が7月実施で決着した後、情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委)で24日、デジタル放送を暗号化している仕組み「B-CAS」を見直す議論があったとIT系のメディアが伝えました。日経BPの「B-CAS見直しが本格始動、『2011年までに改善策決め運用開始』」とか、AV Watchの「法制度導入やB-CAS見直しなど放送の著作権保護を議論−見直しの具体案を求める声も」とかがそうです。一方、大手マスメディアは記事掲載を見送りました。

 上記2件の記事を読んだだけでも方向が見えず、訳が分からなくなる混沌ぶりです。日経BPはB-CAS見直しにポイントを置いていますが、AV WatchはむしろB-CASに代わる「法制度による著作権保護の仕組みを検討」に重みがある構成です。共通しているのは消費者団体などからB-CASに痛烈な批判が出た点です。本当の会議内容がどうだったか知るよしもありませんが、すんなり読める紹介記事を書けるはずがなく、大手マスメディアのライターは諦めたのでしょう。3000万枚ものB-CASカードが配られている現実を考えると残念です。

 B-CAS問題については今年初めに書かれた「池田信夫 blog」の「B-CASは独禁法違反である」が成立の経緯まで踏み込んで鮮烈な批判をしています。

 「CAS(conditional access system)は、有料放送のシステムとしてはどこにもあるが、無料放送にCASをつけている国は日本以外にない」。BSデジタルの有料放送化を狙ってB-CASを100億円かけて入れたが「BSデジタルの出足は悪く、各社は数百億円の赤字で、とても有料化できる情勢ではなかった。おかげで受像機の出荷も少なく、B-CASは赤字を垂れ流していた。そこで彼らが考えたのが、無料放送である地デジにB-CASを導入するという方針だった」「無料放送にCASを入れる大義名分がない。そこで出てきたのが、コピーワンスによって『著作権を守る』という理由だった」

 さらにB-CAS社の役員ポストがNHKの天下り先になっていると指摘、「NHKが今の曖昧な受信料制度を正当化するには、BBCのように『受信料制度だからこそ個別の番組から料金をとらないでオープンに配信できる』というならまだしも、私的な有料放送システムであるCASを使うのは矛盾している」と公共放送の根幹が揺らいでいると主張しています。

 B-CAS社の存在の怪しさ、気持ちの悪さは相当な物です。上場会社でもなく、少し前までは会社所在地まで隠していました。Wikipediaの「B-CAS」に基礎データや多方面の批判がまとめられています。株主筆頭は確かにNHKで、電機大手やBS放送各社などが並びます。この一民間企業に家庭に入るデジタルテレビやデジタルレコーダー全てのユーザー情報が集められていること自体に、大きな疑問があります。2011年にデジタル放送完全移行がもし済めば、ほとんど全世帯の個人情報を持つことになるはずです。事実上、強制的に個人情報は集められており、その法的根拠は存在しないのです。

 コピーワンスの不便、それを改良したというのに不人気で一般の注目度が低いダビング10、いずれもB-CASを存続させるために無理矢理つくられた仕組みです。B-CASカード1枚に500円程度の費用がかかります。これをまだ何千万枚も作るのかです。2011年の見直しでは当然、全廃を望みますが、一般消費者の声が極めて通りにくい場所で決定される恐れが強く、全く楽観できません。「消費者が見たダビング10(あるいは情報通信審議会)」が「無料の地上放送に対する暗号化とコピーガードは、悪名高い禁酒法を連想するほどメリットのない制度(業界の自主規制だが実質は法律に近い)です」と抗議しているのですが……。