第162回「青森の再処理工場は未完成に終わる運命」

 日本原燃が青森県六ヶ所村で建設している再処理工場は、最終段階の高レベル放射能廃液をガラス固化するところで暗礁に乗り上げてしまいました。7月2日、半年ぶりに試運転再開して、その直後にノズルが詰まって緊急停止したと聞き、尋常の事態でないと感じていました。ところが、マスメディアはどこも詳しいレポートをしてくれません。21日になって日経が朝刊の奥の方にある科学面で「日本原燃の再処理試験トラブル 原因究明は長期化 未完成の国産技術採用 コスト重視に落とし穴」を書いてくれました。もう原子力を見ている記者はいなくなったのかと本当に心配していましたが、川合智之記者のグッドジョブです。

 例によって、こうした価値が高い記事でもネット上に出ることはありません。ネットで受けるのは「ひとくち話のようなもの」という誤解が国内のマスメディア側にありますし、確かにネット読者の多くはそういう行動パターンです。ニューヨークタイムズのようにネットで利用できるようになるのは何時のことでしょう。 (http://www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/080711sanko.pdf から引用)

 今回の記事の核心は次の部分です。廃液とガラスを混合、溶融してノズルからステンレス容器に落としていくのですが、そのノズルが簡単に詰まってしまうのです。この部分は原研東海の実験炉で実績があると聞かされていました。「日本原燃は原研機構の溶融炉をそのまま導入したわけではない。原研機構の実験炉では、濃縮装置で廃液濃度を一定に保ち、スポンジ状のガラスに廃液を染み込ませてから溶融炉に入れる。日本原燃は低コスト化のために濃縮装置を省き、ガラスも低コストの粒状のものに替えた。溶融炉の大きさも原研機構の5倍に拡張するなど、実質的に新規開発に近かった」

 これを読んで絶句しました。仕組みと言い、スケールと言い、全くの新規開発です。崩壊熱を自ら発する多数の物質が入り交じった溶融炉の中の物質挙動が、これほど仕組みも物質量も変えて同じになるはずがありません。一国の核燃料再処理を担うのですから、当然、実物大の実験炉で成功させてから実機に組み込むべきです。エンジニアリングの基本を外しています。

 今度の再処理工場本番がその実証実験のようです。原発の核燃料棒から最悪、最強の放射能廃液を絞り出して集めた場所です。ここは通常の原発の放射線レベルとかけ離れた死の空間になり、遠隔操作しかあり得ません。ノズルが詰まったからと人間が覗きに行ける場所ではありません。また、ガラス固化が滞ると前の処理工程が動いていれば高レベル廃液がどんどん溜まります。これが通常の工場廃液のようにタンクに置いておけば済む性質ではないのです。自らの崩壊熱でどんどん熱くなり、強制冷却しないと爆発さえありえます。

 「欠陥ガラス溶融炉の悲痛な叫びが六ヶ所再処理工場は動かしてはならないと訴えている」は「調査の過程で根本的な欠陥が明らかになったにもかかわらず、原子力安全・保安院は6月30日に運転再開を容認しました。今回のトラブルは、この再開容認が間違っていたことを明らかにしました。日本原燃は、前例がなく原因は不明、再開の目処は立っていないとしていますが、前回のトラブルで下部に溜まった白金族元素を含む残留物が流下ノズルに残り、これが影響したような場合には手の打ちようがないでしょう」と指摘し、運転中止を訴えています。

 日経記事によると当初の完成時期は1997年だったのに13回延期され、「現在の計画は7月完成だが、今回の不具合で絶望的となった」とあります。10年以上も完成がずれこんで、今になって根本的な欠陥が明かされる恐ろしさ。マスメディアはきちんと向き合わねばなりません。「既視感ばりばり、もんじゅ低技術の恐怖」と並べてみると、日本の「官製」原子力開発には人材がいないことが明らかです。競争の世界にさらされている基幹産業のエンジニアが知ったら笑い転げるか、憤慨するか、どちらでしょうか。

 【参照】インターネットで読み解く!「再処理工場」関連エントリー