ブッシュ大統領への靴投げ事件その後 [BM時評]

 イラクの「靴投げ記者」ザイディ氏には3月12日、禁固3年の判決が言い渡されました。3月末、事件後のアラブ世界について「中東報道研究機関 メムリ」から、「靴投げ事件にみるアラブ世界の屈折心理」と題した長文報告が出されたので紹介しておきます。アラブの熱狂だけが伝えられていましたが、立ち止まって見直しておきましょう。報告には風刺画も多数収録されています。

 「ザイディの靴投げ事件以来、靴投げが抗議のシンボルになっている。ヨーロッパ各地で、アメリカの政策に反対するデモ隊がアメリカ大使館に靴を投げ、反イスラエル派は靴をふりまわして、イスラエルのガザ攻撃に抗議した。さまざまな国の要人もターゲットにされた。2009年2月2日、中国の温家宝首相は、ケンブリッジ大で講演中靴を投げられ、イスラエルのベニー・ダガン駐スウェーデン大使も、ストックホルム大で講演中靴を投げられた。一方イランでは、2009年3月5日に西部のウルミア市訪問時、イランのアフマディネジャド大統領搭乗車に、ひとりのイラン人が靴を投げつけた」「アラブのメディアはブッシュ靴投げ事件に興奮し、大々的な反応をひきおこした。イラク当局は本件を非難し、イラクの衛星テレビAl-Baghdadiyya記者ザイディを逮捕した。しかしながら一般大衆はザイディに感情移入し、その行為を赦したのみならず、本人を英雄視した。この大衆支持は、無数のデモで表明された」

 この騒ぎ、アラブ大衆は圧倒的にザイディ絶賛なのですが、批判する見方もバランス良く取り上げられています。「社会の熱狂はアラブの弱さを示す―エジプト紙」は「異様なのは、大西洋から(ペルシア)湾岸までアラブ共同体を包みこんだ感情移入と熱狂ぶりである。この事件をアメリカに対する勝利とか、イラクを占領し四分五裂した(アメリカに対する)復讐と考えたのである」「それは間違っている。アラブは論争という習慣から逸脱して、我々の問題を(解決する機会を)逸してしまった…政治煽動に走り、法とルールから逸脱するのが我々の常套手段である」「この熱狂ぶりは、多くの分野で救い難いお手上げ状態にあることを物語る―ザイディの靴がまるで自国解放と諸問題解決の唯一の手段であるかのように、靴をあがめたてまつるのである」と手厳しい。

 「靴を投げて死刑にならないのは民主主義のおかげ―改革派サイト」は「まともな市民生活を送り、或いは指導者を譴責することなど、イラク人民にとって夢のまた夢であった。しかし今日、これまで発揮できなかった勇気を以て行動できる。民主々義のおかげである。(靴投げを)占領者に踏みにじられたイラクの名誉の勝利と見る者は、ブッシュを初めとする当の占領者が、このようなことを可能にする状況をつくった事実に考えがいかない」と、米国のイラク政策成功の現れとまで指摘します。

 ただ外国指導者への暴行で禁固3年の実刑は厳しすぎます。国内のブログでも「イラクと英国の靴投げ事件の顛末」が「同様な事件が英国でも中国の温家宝首相の講演中に起きていますが」「中国側は一過性の事件として問題視しない方針とみられます」「英国側は謝罪した上で法律に基づき靴を投げた人物を処分することを表明」「英国も良識ある判断を下しています」と二つの事件の処分に大差があるとしています。