新型インフルエンザ対策は非常な的外れ [BM時評]

 大型連休での海外への旅行者の帰国ラッシュが始まっています。厚生労働省は水際での阻止、検疫一本にかける構えです。そしてA型が疑われれば診断がつく前に公表するのですが、これが非現実的であることをJMMメールマガジン「絶望の中の希望〜現場からの医療改革レポート」第30回「新型インフルエンザ対策を考える 〜検疫よりも国内体制の整備を!」で、東大医科学研准教授の上昌広さんが書いていらっしゃいます。今日配信のメルマガで、ウェブに反映されるには数日掛かるでしょうから、いくつか論点を引用しておきます。

 「新型インフルエンザの潜伏期間は長く見積もって約10日間ですが、空港利用者の大部分が短期間の旅行や出張から帰ってくる人でしょうから、ほとんどがこの期間中にあると予想できます。空港に着いた時に症状がなければ、どんなに検疫を強化しても発見できませんから、すり抜けて国内に入っていることになります」

 「厚労省は乗客の体温を検知するサーモグラフィーを大量に整備しました。しかしながら、サーモグラフィーでの有症者発見率は0.02%すなわち1000人に2人で、99.8%はすり抜けます」

 これが現実なのですね。世界の多くの国が検疫を重視していない理由が分かると思います。そして、上さんは「常識的に考えれば、日本にも新型インフルエンザは入ってくるでしょう。わが国の緊急の課題は、医療現場に新型インフルエンザの可能性がある人が大量に押し寄せても対応できる体制を整えることです。その場合、問題は病院の体制整備です」と、本来するべきは医療体制の整備だと指摘しています。

 読売新聞が「発熱患者の診察拒否続出…過剰反応?都に苦情92件」と伝える状況が既に起きています。自治体が設けた発熱相談センターから新型の疑いなしとされたケースですら診察拒否が発生しています。このまま体制整備に力を入れることなく本当に新型患者があちこちで現れたら、もっと酷い混乱が起きるでしょう。未確認例の公表で患者のプライバシーが無用に暴かれる恐れも強まっています。

 産経新聞が《【新型インフル】都の独自検査「疑い例」9件、「国への届け出基準に該当せず」》と報じているように、東京都は「混乱を招きかねない」などの理由で未確認段階での公表をしない方針であることが分かりました。

 ブログの声、例えば「新型インフルエンザが日本中に広がったら!」などは「東京が1番海外帰国者が日本で多いんじゃないですか!」「もし、新型インフルエンザが広まったら、それは東京都のせいですね!」と怒っています。

 しかし、実際には実効性があるとは思えない検疫に血道をあげて、末端の医療体制整備に目が向いていない厚労省にこそ問題があると思えます。

 再び、上さんの指摘です。「感染を広げないための基本は『隔離』です。感染したら死ぬ確率の高い他の患者を守るために、他の患者と接しないように、個室に入ってもらわなければなりません。ところが、外来に、他の患者と接しない個室や陰圧室を持っている病院は日本では非常に少ないのです」「発熱外来を設置するために、入口の外にテントを張った病院もありますが、2人目の患者が来たら、どこで待っていてもらえばいいのでしょうか。同じ部屋の中で、検査結果を待つ6〜8時間の間に、可能性のある人同士でうつしあってもよいというものではありません。今のままでは、病院に押し寄せた患者さんが待っていてもらう部屋はない病院が多く、外で待っていてもらうことになります」

 各地の病院で起きそうな、こうした事態を想定して手を打つべき時が来ています。マスメディアも検疫騒ぎを追うよりも、新型侵入必至と覚悟したうえで現場の体制が出来ているのかに目を向けるべきでしょう。

【追補】現役の検疫官木村盛世氏が批判している「新型インフルエンザ、水際封じ込めはナンセンス」を追加しておきます。

 「厚生労働省が言っているのは、検疫による水際での封じ込め、ワクチン、タミフルの3点セットですよね。でも、こんなの新型インフルエンザに対してはナンセンスです」「特に問題が大きいのは検疫です。症状だけでは、普通の風邪や既存のインフルエンザと見分けがつきませんし、10日間の潜伏期間もあります。それから、簡易キットによるスクリーニングが100%の精度であるはずありません。過去のインフルエンザの例を見ても、学校の閉鎖や空港の閉鎖なども成功した試しがないんです。日本に入っちゃうと思った方がいいし、入っちゃったら間違いなく広がります」