クロマグロ禁輸で漁業と水産養殖を見直せ [BM時評]

 大西洋と地中海のクロマグロについて全面禁輸が話し合われるワシントン条約締約国会議が13日、カタール・ドーハで始まりました。この海域のクロマグロは8割を日本が消費しているのに、EUや米国など禁輸賛成派の勢いは強く、太平洋にまで影響してくると心配する水産関係者もいます。実はマグロだけに気を取られてはいけないことは、2006年の「世界規模での漁業崩壊が見えてきた」で指摘しました。漁業・養殖業の在り方を早急に見直すべきなのに、稲作・農業問題と同様に放置が続いています。

 マグロの漁獲量推移は「主なマグロの海域別漁獲量」で見ることが出来ます。焦点の高級魚クロマグロについては西大西洋での資源枯渇が著しく、1964年の1万8679トンが2007年には10分の1以下に減っています。クロマグロに並んで高級なミナミマグロは南半球に生息していますが、これも急速に漁獲が減っています。1961年のピーク8万トンが2007年には1万トン余りです。東大西洋のクロマグロはまだ余裕があり、1996年のピーク5万トンが2007年に3万トン余りです。

 「世界規模での漁業崩壊が見えてきた」で紹介した「スシが食べられなくなる 2048年までに世界の海産食品資源が消滅−新研究」から引用すると、「過去200年、沿岸の生物多様性は、汚染による水質悪化、有害藻・沿岸の洪水・殺魚の急増に伴い、急速に低下している」「海産食品資源についても、1950年に利用できたものの29%が2003年時点で失われており、残ったものも2048年までにはすべて消えてしまうだろう」という恐ろしい予測を国際研究チームが出しているのです。

 農水省の「農林水産基本データ集」を見れば、水産国日本と言いつつ漁業・養殖業が放置されてきたことが分かります。漁業総生産量は2008年の概数で559万トンで、ピークだったのは1984年の1282万トンです。養殖で主流の海面養殖は115万トンと、1994年のピーク134万トンに比べてかなり落ち込んでいます。マグロに関してなら「国際規制強化に間に合ったマグロ完全養殖」のように明るい展望がありますが、これも不可能とされた技術開発に近畿大がねばり強く挑んだおかげであり、国が強力にサポートしたものではありません。

 いま大学ではバイオ系大学院研究者の過剰感が目立っています。国内にバイオ系の企業が少なく就職先が無いのに、研究者養成の枠だけが大きいのです。少し目先を変えて、水産養殖業に本腰を入れる、柔軟な発想転換が出来ないものかと前々から思っています。