立て続けのネット規制は現実とミスマッチ [BM時評]

 3月末に都議会のネットカフェ規制条例が成立したのに続いて、最高裁が8日、ネット上で名誉棄損などの不法行為を受けた人が、書き込みルートである「経由プロバイダ」に書き込み者の顧客情報を請求できるとの判決を出しました。やはり3月の最高裁判例でネット上の記事による名誉棄損罪の基準をマスメディアと同じにするとされたばかりです。額面のまま受け取れば、ネット上の表現に非常に厳しい規制が課されたことになります。

 「みんなにわかる!最高裁判所・判例解説」の「H22.04.08:発信者情報開示請求事件@経由プロバイダはプロバイダ責任制限法『特定電気通信役務提供者』に該当する」は判決の趣旨をこう説明しています。「経由プロバイダは(サービス利用者に課金する都合上)情報の発信者の個人情報を有しており,その反面,経由プロバイダ以外(電子掲示板のサーバー管理者など)はそう言った情報を有していないことが多い」「ここで,経由プロバイダは情報を開示する義務を負わないとすると,加害者の特定が困難になり,この開示制度を設けた意味が無くなってしまうから,としています」

 こうしたプロバイダに個人情報を登録せずにネットに書き込める場所がネットカフェです。都条例はネットカフェ側に運転免許証などで本人確認をし、その記録を残すように定めています。副作用として夜の寝場所を求めるホームレスが締め出される恐れがあったり、ネットカフェ側に残る個人情報記録が漏れたり、悪用されたりすることがないのか懸念されます。

 経由プロバイダに書き込み者情報を開示させる今回の判例確定にも、副作用の懸念があります。たとえば似非科学的な悪質商法業者に対する批判がネット上では盛んにされています。業者側が民事裁判に訴えて脅しをかけることがこれまで以上に増えると予想できます。マスメディア並みの調査義務を課すとした3月の判例と合わせれば、「自分が儲かるわけでもないのに悪質商法批判などしていられない」と萎縮させてしまう恐れが大です。

 一連の規制強化に対してマスメディアは問題意識をあまり持たないようです。ネット関連でマイナスの事例が持ち上がると大きく報道するけれど、ネット社会がもたらした前向きの意義を理解していない証拠です。従来はマスメディアが社会の知をランク付けしていたのに、検索システムと個人のウェブ、ブログが複合したネット社会は自らの力で知のランク付けを果たしてしまいました。メディアに頼らずとも、社会の持つ知の評価、流通が出来るようになりました。市民社会が自律的な発展で次の段階に移行したのです。そこに旧社会のルールすべてが適用できるはずもありません。

 3月の判例では「ネットの名誉棄損、最高裁が無理強いしても」と書きました。今回も実はネット上の反響は大したことはありません。それを見る限り、ネット規制が浸透していくのか疑わしくさえあります。司法や行政が罰則をたてに強制するのではなく、中学校あたりでネットの利用・活用法をトータルに教える仕組みを早く確立すべきです。それにしてもネットの書き込みをマスメディアと同じ基準とする最高裁には同調しかねます。現実に起きていることは法の建前よりも説得力がありますから、子ども達に建前だけ教えるネット教育は無効になる恐れが大きいので困ります。