幼児虐待に積極応用したいオキシトシン効果 [BM時評] (2010/04/25)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 「47Nes」がオキシトシンという「ホルモンで自閉症改善 金沢大が臨床例発表」と伝えました。このホルモン、5年前にも人を信頼させる物質として出たりと時折、浮かび上がってきます。20年ほど前、科学面「心のデザイン」シリーズで最も早い時期にオキシトシンを紹介した者として、この際まとめておこうと思います。

 金沢大の発表は「3歳から自閉症とされてきた20代男性で、会話ができず、人と交流ができずにいた。両親が2008年、スイスからオキシトシンの点鼻薬を輸入し服用すると、男性は診察で担当医の目を見て笑い『はい』『いいえ』と答えるようになり、担当医が驚いた」というものです。「重度の知能障害がある自閉症患者が長期間服用し、改善が確認されたのは初めて」

 オキシトシンは女性が赤ちゃんに乳首を吸ってもらうなどすると脳からリリースされます。男性の血液中にも存在するのですが、自閉症患者には少ないとも言われていました。「心のデザイン・脳内物質」のシリーズでは「母性行動」についてこう書いています。

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 処女ネズミのそばに、生まれたばかりの赤ちゃんネズミを置いて、1週間近くいっしょにすると、母性本能に目覚め、体を丸め赤ちゃんを抱きかかえるようになります。この不思議な行動の秘密は、1979年に米国で解き明かされました。脳の視床下部で造られているホルモン、オキシトシンを処女ネズミの脳に注入してやると、46%のネズミが2時間以内に完全に「母親化」し、あらかじめ女性ホルモンで発情させておけば、その割合は85%にも増えました。「オキシトシン」は出産のための子宮収縮や射乳の作用があるホルモンで、脳内では母性行動をとらせる作用もしていたのです。

 オキシトシンには構造がよく似たバソプレシンという兄弟分があります。こちらは血圧上昇などの作用をします。このふたつのホルモンは、下等な動物の「バソトシン」というホルモンから、ほ乳類に進化する際に分化したと見られています。バソトシンも鳥類などで輸卵管の収縮などの作用をします。

 興味深いことに、バソプレシンは記憶を良くする、物覚えがよくなる働きをするのに対して、オキシトシンは記憶を作ることを阻むのです。さらに、オキシトシンは一度できた記憶を思い出させる作用が強いらしいことも分かってきました。わき目もふらずに子育てに専念し、子のためには少々の危険や困難も厭わない母親の愛情。その裏側を示唆していると思われませんか。そして、母乳で育てることが母性を強化していることも。

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 「科学に佇む心と身体」の「オキシトシン:これが愛情と信頼のホルモン」が「人を信用させる物質オキシトシンを鼻にスプレーしたら効いた」との記事紹介から始めて、【オキシトシンで「かわいい」!】【オキシトシンで愛の対象を記憶に刷り込む】【警戒しないこと、信頼すること、愛すること】など関連分野別に書籍も取り上げてくれています。

 「赤ちゃんにオッパイをあげているときに、親が赤ちゃん怖いとか、吸われてキモイとか感じてくれてはまずいわけで、親の赤ちゃんに対する警戒心はグッと下がってもらわないと困る。『たまらない』ほど、愛おしんでもらわないと赤ちゃんは生きられず人類滅びてしまう。ゆえに、オキシトシンはせっせとヒトの母性本能を刺激する」

 近年、新聞の社会面を賑わせている事件に多数の幼児虐待があります。自分が幼児期に母親から虐待された女性が、我が子の虐待行為に走る例もかなりあります。心理学的な解説もあるのですが、オキシトシンをつくる能力が低い遺伝的な基盤があるのではないかと疑っています。金沢大の点鼻薬は母乳分泌促進用だったようですが、幼児虐待傾向にある母親にも積極的に投与することを検討してよいのではないでしょうか。名目は母乳用でも構いません。母乳で育てて自分の脳内でオキシトシンをつくだすように指導するだけでは間に合わないほど、虐待事件は頻発しているようです。母の日(5月9日)を前に考えたところです。

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