第226回「新聞社の電子版有料化、内外とも苦戦苦悩」

 今年は日経新聞がある程度の無料記事を残して有料電子版に踏み切り、英国ではタイムズ紙がウェブに無料記事が存在しない完全有料化を果たしました。来年からはニューヨークタイムズ紙もこうした電子版有料化に加わります。日英の両紙は公式には順調を装うものの、私は実際には苦戦模様と受け止めています。ニューヨークタイムズも有料読者への価格設定をどうしたものか、頭を痛めている様子です。経済金融情報中心で唯一の成功例と言われるウォール・ストリート・ジャーナル「電子版有料読者120万人」に続くのは、なかなか難しいようです。

 完全有料のタイムズ紙について「EBook2.0 Magazine」の「英国Times紙の有料読者獲得は10万」は、逆に無料主義を続けるライバル紙、ガーディアン側の見方をこう伝えています。「評価は、とにかく手厳しい。10万の購入者のうち、定期購読は半分にすぎないとみているからだ」「電子版を購読するのは従来からの愛読者のみ。数百万人がトップページだけを見て去っていく。わずかな購読者を得ることで、つねに『会話の中心に存在すべき』共鳴器としての地位を失っているではないか」。数百万人の客が10万、20万人になれば広告価値は激減します。示されているシェア・グラフの落ち込みは深刻です。同紙の電子版購読料は月8.67ポンド、1100円余りなのに、5万の定期購読者しかいないのです。

 日経新聞の電子版有料会員は始めて1カ月もしない4月17日に6万人を超え、7月7日には7万人とアナウンスされました。朝日新聞は「3年前後で30万人の有料会員を目ざしていた同社では『想定を若干上回るペース』(広報グループ)と話し、順調な滑り出しと位置づけている」と報じたのですが、その後の動きが見えませんでした。11月になってようやく「コンテンツメディアの在り方」(読売新聞)にパネルディスカッションでの同社幹部発言が収録されました。「日経電子版は有料サービスで、しかも従来のサービスと比べても非常に高価だ。しかし、開始以降約8万人が有料サービスの会員になり、その属性は企業の部長以上が40%、役員が25%という属性になったという」

 電子版有料会員の増え方は「4カ月で1万人」にペースダウンしたと見られます。電子版の定価は毎月4000円ですが、既に紙の新聞を定期購読している読者は1000円の追加で済みます。日経新聞の最終版を読めなかった「早版地域」の読者にはこの1000円は価値があり、4月の立ち上がりに多数集まったはずで、その後の追加は少ないとみられます。そして、企業幹部中心の読者属性は「社用」で利用されている現れであり、一般市民読者の心を捉えているとは言い難いでしょう。

 「WSJのweb有料会員になってみたよ。」(一若者が観る三千世界)が月1660円のウォール・ストリート・ジャーナル日本版Web有料会員になって、日経新聞との比較をしています。「Nikkeiは4000円/月の魅力はちょっと感じなかった」日経に「好ましく感じなかった点は、1) ブロガーは個別記事へのリンク禁止、 2)リンク切れ起こす(会員サービスとしてアーカイブ検索は存在する)、3) URLがなんか変」「紙面でどんな広告うたれているかが分からず、メジャーな流れについていけない」「あの記事見た?という新聞購読者同士のコミュニケーションがない」とあり、それぞれ理解できます。日経の場合、外部のネット世界、ソーシャルメディアなどで話題にされる利用方法を最初から拒絶しています。

 ニューヨークタイムズ紙については、「ニュースサイトの有料化」(From the Land of Freedom Fries)に、同紙のアンケート依頼に応じた話が書かれています。「『nytimes.comは来年から有料になります。月$10ならあなたはアクセスしますか?』これに『ノー』と答えたら、次は『$10の8割引ならアクセスしますか?』」「この料金設定の質問が延々と続いた。日曜版(紙媒体宅配)プラス電子版無制限で月$60とか、日曜版プラス電子版記事月に10本で$20とか(正確な設定、金額はよく覚えていない)、とにかくありとあらゆる組み合わせ、値段で、これでもか、これでもかと聞いてくる」

 月1000円前後が可能なのか、思い切って下げるべきなのか、悩みは深いはずです。そして、アクセス数の激減があれば広告収入だけでなく、話題の中心から外れる結果、マスメディアとしての社会的地位の変動も招きます。

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