漁業資源枯渇が国内マスメディアに見えない [BM時評]

 2010年は国際生物多様性年と定められ、クロマグロなどを中心に漁業資源枯渇にも注目が集まった年でした。大西洋クロマグロは3月のワシントン条約締約国会議で禁輸が議論され、12月には日本の主要漁場を管理する中西部太平洋まぐろ類委員会で初めて漁獲規制が合意されたのですが、それを伝える国内マスメディアの論調は資源枯渇が視野になく、いまだに消費に支障があるかどうかにポイントを置く不思議なトーンでした。

 例えば時事通信の「太平洋クロマグロ、日本は3割減=幼魚の漁獲量規制で合意−WCPFC」は「日本近海を含む太平洋の西側でクロマグロ(本マグロ)の漁獲量を削減する国際規制を採択し、閉幕した。水産庁によると、削減対象は3歳以下の幼魚で、規制は2011、12の両年に適用される。太平洋クロマグロ全体の漁獲シェアで7割を占める日本には、約3割の幼魚削減となる」「ただ、幼魚の削減量は、多様な刺し身マグロの国内供給全体の1%程度。水産庁は『マグロ価格への大きな影響はない』とみている」と報じています。

 朝日新聞の「クロマグロ漁獲、太平洋で初の削減合意 カツオは先送り」なら「対日輸出を減らしたくない韓国が抵抗。最終的に韓国だけ02〜04年の平均水準に縛られない合意となったが、韓国も『幼魚の漁獲量を規制するために必要な措置を講じる』ことは受け入れた」と対韓国の方に目が向いています。

 こうした記事を書いている水産庁担当記者が官庁情報以外に目を向けていないからです。「勝川俊雄 公式サイト」の「クロマグロの日本海産卵群は壊滅的」から、鳥取・境港でのクロマグロ漁獲の推移を表すグラフを引用します。  こう解説されています。「図の青の部分が産卵場で獲られた成熟群、赤の部分は日本海北部漁場(能登から新潟にかけて)で獲られた未成漁である。操業が本格化した翌年から、産卵群は直線的に減っていることがわかる。6年間で7%に落ち込んでしまった。2007年から、北の方の未成漁にも手を出している。海に残しておけば、来年から産卵群に加わる群れを、根こそぎ獲っているのである。今年は、6月から漁が始まって、ほぼ2週間で未成漁の群れを獲り尽くしてしまった」

 こんな愚かな、幼魚を根こそぎにする漁業をしているから成熟した親魚も見る見る減っていく訳です。その意味では今回の26%削減合意は遅すぎたし、もっと大幅削減でも良かったはずです。乱獲で資源量がはっきり落ちているメバチマグロなども含めて包括的な規制を考え、持続可能な漁業に引っ張っていくのが新聞などマスメディアの仕事と思うのですが……。

 【参照】2006/11/19「世界規模での漁業崩壊が見えてきた [ブログ時評69]」