第252回「公衆の被ばく限度、運用で10〜50倍も切り上げ」

 年間1ミリシーベルトと定まっている公衆の被ばく線量限度が、福島原発事故に伴う原子力安全委員会の運用で10〜50倍も切り上げられていることが明らかになりました。先週末、新聞各紙は「国際放射線防護委員会(ICRP)が20倍までの引き上げを検討するよう提案」と伝えましたが、実際には国民にはっきりと説明をすることなく、ずっと上の線量限度が実施されていました。妊婦や乳児について心配無しとは言えない線量限度ですから現状は「棄民状態」であり、自衛策を選べるよう国民に説明すべきです。

 原子力安全委員会が25日に「第19回 原子力安全委員会臨時会議」を開き、文部科学省環境モニタリングの結果に対する原子力安全委員会による評価結果の公表が始まりました。26日公表の「環境モニタリング結果の評価について」で事故後、高い放射線量を記録し続けている福島第一原発北西30キロ、浪江町がどう扱われているのか判明しました。

 170マイクロシーベルト/時を観測した18日には「身体への影響を生じるレベルのものではありませんが、約3日程度で屋内退避に関する指標(10mSvから50mSv範囲)の下限値に達するため、この状況がさらに継続する場合には、屋内退避地域の一部見直しについても検討する必要があると考えられ、文部科学省に対して、積算線量計を設置し、推移を注意深く見守るよう要請」とあります。170マイクロシーベルト/時なら6時間も屋外にいれば1ミリシーベルトの年間公衆許容量を超します。それに言及することなく屋内退避の是非を論じているのですから、許容限度は実質的に「屋内退避に関する指標(10mSvから50mSv範囲)」に移っています。実際に一般国民は規制当局から「危ないので避難してください」と言われない限り動けません。

 この指標は昭和55年6月の安全委決定「原子力施設等の防災対策について」に基づいています。10〜50ミリシーベルトの予測線量があるときは「住民は、自宅等の屋内へ退避すること。その際、窓等を閉め気密性に配慮すること」となっています。

 時事ドットコムの《「健康影響は最小限」=被ばく限度上げで文科省審議会》が伝えるように「東日本大震災で福島原発事故が発生した後、国が緊急作業従事者の被ばく線量限度を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げ」ました。しかし、公衆については正式な線量限度変更はありません。

 職業人と公衆との間に大きな許容限度差を置いている理由は、職業人は放射線量が測定されている区域にいるか個人別線量計を持っているのに対して、公衆の中、ある地点で測定された線量と個々人が浴びる線量に大きなばらつきが存在することが第1点。加えて公衆には妊婦や乳幼児といった放射線に弱い存在が含まれていて安全率を大きく取らねばならないからです。

 緊急事態だからと言って公衆の限度を職業人の近くまで引き上げるのは無謀であり、少なくとも妊婦や乳幼児といった弱者は別扱いを前提にすべきです。「福島市で年間の公衆被曝許容量を超えたのに」で指摘したように既に人口29万人の県庁所在地で2ミリシーベルトの累積放射線量があり、今後もしばらくは放射能漏れは続く見込みです。飯館村のように相当に高い線量まで行った所もあります。国や福島県は従来の放射線についての考え方と現状で運用されている大幅な線量限度拡大の違いをはっきり説明し、弱者には事前疎開を選ばせるなど適切な対処をすべきです。