第256回「反例:低線量でガン増加確認のスウェーデン」

 ネット上で良心的な仕事をされてきた松永和紀さんが《超訳・放射能汚染1〜疫学が示す「年間100mSv未満は大丈夫」》を書かれているのを読んで、困った風潮と感じました。私は低線量の被ばくでも確率的な影響はあると考えており、読者の皆さん自身に判断していただくには適切な反例を挙げればよいと思いつきました。25年前のチェルノブイリ事故から流れた放射能雲で汚染されたスウェーデンで、数ミリシーベルトの線量がガン発生の増加を招いていると突き止められています。

 松永さんの論理はこうです。「『100mSv以上であれば発がんリスクがわずかに上がる』というところでは、大多数の疫学者の意見が一致している」「しかし、放射線被曝がそれよりも少なくなると、リスクの上昇を見出せなくなってしまう。これは、もうがんは起きない、つまり発がんリスクゼロを意味するのではなく、ほかのさまざまな要因や個々人の生活習慣の違いなどによるがん化の影響が大きいために、自然放射線を除く“追加”の放射線被曝の影響はもはや区別できなくなり、隠れてしまうのだ」「隠れてしまうようなリスクは、あったとしても非常に小さなものなので、現実の生活の中では無視できる」

 京大原子炉の今中哲二さんらが加わった研究チームが2007年に「チェルノブイリ原発事故の実相解明への多角的アプローチ〜20年を機会とする事故被害のまとめ〜」を出しています。そこにスウェーデンのマーチン・トンデルさんの論文「北スウェーデン地域でのガン発生率増加はチェルノブイリ事故が原因か?」が入っています。

 「住民の被曝量は、居住地域、野外活動、食習慣に依存するものの、最初の1年間で1-2mSv、最大で約4mSvと見積もられている」「年齢、性別、先行する2年間の居住地区といった情報を備えた、114万3182人の集団が得られた」「我々の解析によると、2万2409件のガンのうち、849件がチェルノブイリからの放射能汚染によるものである」「低線量被曝によるガン影響は、国際放射線防護委員会ICRPの予測に比べて早く現われ、いくらか大きめである」

 チェルノブイリ事故の影響はあったとして小さいだろうから感度が高い調査計画が立てられ、ガン発生率が大きい大都市は入っていません。さらにスウェーデンでは地域のガン登録が徹底されている点が見逃せません。事故で社会的大混乱に陥った旧ソ連と違い、住民の移動もわずかでした。疫学調査をする上で条件を整えれば、低線量被曝でも影響は見えてくるのでした。

 日経新聞朝刊の不見識な見出し「放射線の発がんリスク、100ミリシーベルトで受動喫煙並み」や、《放射能の危険性は本当? 英国で議論呼ぶ異説》の「100mSvを健康被害が発生し始める“閾値(しきい値)”と捉え、少なくとも閾値以下の低線量被曝なら、細胞の自己修復機能が働くとも主張する」など、「100ミリシーベルト伝説」はますます猛威をふるっています。

 確率的影響としての発ガンは、その集団の誰に現れるか知れません。影響は低線量域から正比例で増加すると考えるべきですが、判断は読者に委ねます。