第263回「高速炉もんじゅ落下装置引き上げに工学的無理」

 福島第一原発事故の影響もあって福井県敦賀市にある高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転も廃炉も出来ない惨状に関心が集まっています。そして、重量3.3トンもあり落下したままになっている炉内中継装置の再引き上げが来週にも実施されそうですが、昨秋の失敗に続いて今回も不可能ではないかとの工学的疑問を投げかけておきます。これで失敗したら東の福島に西の福井と、長年にわたり尾を引く原子力の厄介者を東西に抱え込む事態になります。

 昨年の引き上げ失敗は、落下の衝撃で筒状の炉内中継装置が曲がってしまい、原子炉上蓋の穴から抜けなくなって起きました。この穴は燃料出入孔スリーブと呼ばれる外径640ミリ、内径465ミリの筒状部品です。今回の引き上げではこのスリーブごと蓋から外してしまう大がかりな方法が考案されました。原子炉内部には200度以上の危険な高温液体ナトリウム、それを空気から遮断するアルゴンガスがあるために、安全に引き上げるための工夫が色々と凝らされているようですが、日本原子力研究開発機構は肝心な点を忘れています。

 20年前にこの原子炉を造った際には高温液体ナトリウムはまだ入っておらず、室温の環境で建設が進みました。200度もの高温が存在すると鋼材は無視できない膨張をします。最近になって炉内中継装置の関連資料をネットで見つけ、蓋とスリーブの構造を推定することで定量的な検討が可能になりました。  上の図は「図12.2-2強度評価部位」を加工したものです。固定プラグと呼ぶ原子炉上蓋にスリーブが組み込まれ、その中に炉内中継装置がはまっています。装置がスリーブにぶつかった際の衝撃を評価する図で、赤く塗られた鋼材骨格の太さと熱伝導性の良さを考えると、赤い部分はほぼ室温に近いと考えます。その下にスリーブの中間段差があり、蓋側の内部には断熱材と思われる層が幾重にも重なっています。スリーブは上部と下部に空洞を持つようです。

 話の見通しを良くするために簡単なモデルを考えます。スリーブは段差がない直径500ミリ、建設時の蓋側の穴は片側0.1ミリのすき間があるとして500.2ミリ、中間段差部は最上部の室温より50度プラス、最下部の原子炉側は室温プラス200度とすれば、スリーブと蓋の穴の直径は鋼材の膨張を考えると現在、以下のようになっています。  スリーブ最下部を引き上げていけば、中間段差部に到達する以前に蓋の穴より直径が大きくなって抜けなくなります。もしスリーブだけ抜いていくのなら時間を掛けて温度が周囲の穴の温度まで下がるのを待つ手があります。しかし、スリーブは炉内中継装置を抱いていて、装置の下部は液体ナトリウムに浸かっていますから200度以上の高温は絶えず伝わってきます。スリーブと蓋の穴の間に最初からコンマ何ミリものすき間があれば抜けますが、アルゴンガスを封じ込める機能を考えれば、すき間はずっと小さく造られた可能性が高いとみるべきでしょう。機構側には建設時のすき間データが残っているはずですし、蓋の穴について裏側構造や熱容量のデータなども検討すべきですが、公開されていません。

 【参照】インターネットで読み解く!高速炉もんじゅ関連エントリー