第276回「アジア工業国の非婚化は日本以上に進んでいる」

 8月下旬、英エコノミスト誌からの記事「激変するアジア社会:結婚しない女性たち」を見て、非婚化傾向を追ってきた立場でフォローしようと思いました。2004年の合計出生率は日本が1.29と下がって騒いでいるのに、韓国1.16、台湾1.18、シンガポール1.24、香港0.93とアジア工業国(地域)は一段と低い状況です。欧米と違って婚外子があまりいないアジアですから、この数字は非婚化の進展を表しています。人口を維持するには2.1が必要です。

 JICAの「2.主要国の少子高齢化と経済成長」に「合計出生率の推移(実績と予測)」があるので引用します。1960年代に既に「2」台に落ちていた日本に比べて、他の諸国は高い出生率から1970年末、一気に「2」台に突入し、21世紀に入って日本を下回っていくのが見えます。  英エコノミスト誌は「多くのアジア人は結婚を先送りしているのではない。一生結婚しないのだ。日本では、30代前半の女性の3分の1近くが未婚で、恐らく、その半数は今後も結婚しないだろう。台湾では、30代後半の女性の5分の1以上が未婚で、その大部分が一生独身だ」「さらに未婚率が際立っている場所もある。40〜44歳の女性の未婚率は、タイのバンコクでは20%、東京では21%に上る。シンガポールでは、この年齢層の大卒者は27%が結婚していない」「アジアで起きている結婚からの逃避は、現代の女性が大きな自由を享受できるようになった結果であり、それ自体は祝福すべきことだ」と指摘します。しかし、結婚できない男性を大量に生み出し、非常な速さで高齢化社会に突き進みます。(参照:日本の生涯未婚率最新見通し

 これに関して2008年に日大人口研が国際会議を開き、「アジアの低出生をテーマに国際会議 日大人口研、WHO、 国際人口学会」と題したドキュメントを残しています。「超低出生国というのは、合計特殊出生率が1.3以下と極めて低いという状態にある国のこと。この状態が続くと1世代(約30年)後には、人口が35%から40%減少するとされている」とし、アジア工業国は軒並みこれに該当します。

 中国も経済発展が著しい地域では出生率低下が進んでいます。「上海に隣接する江蘇省の2000年の合計特殊出生率(TFR、 1人の女性が生涯に産む平均子ども数の推計値)は1.0。中国全体の1.5よりかなり低い。ワン氏はこの理由として、グローバル化による経済発展が著しいことや、1979年から始まった『一人っ子政策』を、同省は最も厳格に遂行していることなどを挙げた」

 アジア工業国での出生率低下について「オーストラリア国立大学のピーター・マクドナルド教授は『結婚している割合が低いこと、子どもに掛かる直接費用が高いこと、女性の間に家族よリキャリアを追求しようという意識が強いこと』があると指摘した」。また「東アジアは家族を大事にするという価値観がある。特に男児の場合は『成功主義』が影響しており、子どもの成功が親の社会的評価につながることから、教育に多くを投資しているとした。その結果として『数』より『質』ということになり、出生率の低下につながる」「世界の金融危機のような不確定な要素があると、夫婦は子どもをつくらないだろうとし、東アジアの出生の回復は困難との見通しを述べた」

 子どもへの投資が日本でも深刻な負担になっています。生まれてから自立するまでの歳が「1984年は24歳だった。ところが高学歴化やニート・フリーターの増加などにより2004年には26歳に上昇した」「この期間のコスト(消費が所得を上回るため家族でサポートする分)を働き盛りの30〜49歳の平均年間労働所得から計算すると、約13年間分の給与が必要ということになる」

 出生率低下が進んで人口増加が早く終わってしまうと、社会が富む前に高齢化してしまうことになります。みずほ総研論集2008年W号の「東アジアにおける高齢化の進展と政策的課題」に、15〜64歳の生産年齢人口がそれ以外の世代の2倍以上いる「人口ボーナス期」の終了時に、どれくらいの1人当たりGDPになっているか一覧表があったので引用します。アジア工業国は2万ドル以上の高水準ですが、人口の大きい中国は5千ドル台に止まります。タイ、インドネシアなども厳しい水準です。



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