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第278回「説明責任を果たさない政府・東電・メディア」 (2011/09/11)

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(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 東日本大震災と福島原発事故が起きて半年が経過しました。震災からの復興も原発事故の収束も実はほとんど進んでおらず、政府・国会に対する不信感が大衆を覆い、政府べったりのマスメディアへの失望も広がって、社会に奇妙な閉塞感が満ちています。事故そのものが人災であったと言われながら誰の責任か明らかにならないし、事故の直後に「安全」「直ちに健康への心配なし」とした乱暴な発言・報道が訂正されたり、謝罪されることもありません。政府・東電・メディアいずれもが説明責任を果たさないで、逃げを打っているのです。

 ◆無責任な安全発言に謝罪・釈明なく◆

 福島から遠い首都圏でも放射能のホットスポットが見つかり、在京メディアは当初、無視したのですが、《首都圏で除染の動き広がる 住民の声受け国に先行》(朝日新聞)が今の姿です。「足立区は8月10日から小学校や幼稚園、公園などの砂場593カ所のうち、毎時0.25マイクロシーベルト以上が出た35カ所で砂を入れ替えるなどした」。その根拠をたどると法律に定められている年間線量限度1ミリシーベルトです。ようやく法治国家として当たり前の姿になってきました。

 朝日新聞は事故直後は100ミリシーベルト以下では健康被害は不明とし、「100mSvまでは安全」と主張する御用学者の尻馬に乗っていました。ところが、9月8日の朝刊《線量低減 絶対安全な境界なし》では専門家に「1ミリシーベルトは健康上のリスクとしては低いレベルだが絶対的な安全基準ではない」とまで言わせています。そこまで無理をする必要はなく、少なくとも首都圏では最初から法定の線量限度を守ろうとの姿勢を堅持すればよかったのです。どのメディアも事故現場がある福島と首都圏を分ける視点が持てず、ぶれまくる印象です。読者はおおいに迷惑です。

 福島県放射線健康リスク管理アドバイザーだった山下俊一氏が、事故直後にした安全発言の乱暴さは恐ろしいほどです。3月21日にあった《山下俊一氏・高村昇氏「放射線と私たちの健康との関係」講演会(後半)》の質疑応答でこうです。「科学的に言うと、環境の汚染の濃度、マイクロシーベルトが、100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、もう、5とか、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。昨日もいわき市で答えられました。『いま、いわき市で外で遊んでいいですか』『どんどん遊んでいい』と答えました。福島も同じです」。さすがに講演会動画を収録した福島県のホームページで、10分の1の「10マイクロシーベルト/hを超さなければ」の誤りと訂正されましたが、この高線量下で「外で遊べ」と言った事実は消えません。

 山下俊一氏は7月から福島県立医大の副学長におさまって、200万人県民健康調査の指揮を執っているのですから、「調査から外せ」と要求する気持ちはよく分かります。しかし、ドイツ誌とのインタビューを見ると「100mSvまでは安全」は揺るがず、国が事故時での目標線量をICRPが示した幅で一番低い20mSvに設定した結果、自分が言ってきた100mSvが浮き上がって迷惑と感じているようです。このように被災者に自説を強要し、安全側に誘導する気持ちがない学者に「朝日がん大賞」を与える新聞社のセンスにはあきれ果てますが、選考の背景に学界から支持がある点は見逃せません。こうした指導層によって原子力は推進されてきました。

 ◆原発事故の究明・収束に見通し立たず◆

 政府の事故調査委は責任を問わない原則を標榜していて、あまり期待していませんでした。それでも15メートル大津波が東電よって2008年に想定されていたことを明るみに出すなど実績をあげ始めました。そこに冷水を浴びせたのが《東電、真っ黒な手順書でも秘密? 衆院委に提出》(47news)です。国会が求めた福島第一原発の事故時運転操作手順書12ページに対し提出された物は「9ページ分は全て塗りつぶされ、読み取れるのは全部足しても十数行」の有り様です。東電がこの態度を続けるなら、真相が究明されることはあり得ませんから、国会はペナルティを課してでも必要な資料は出させるべきです。

 東電は政府・保安院と一緒になって「メルトダウンは無い」と言い続け、周辺住民の避難を遅らせ、ヨウ素剤の服用期を逸する結果になりました。ところが事故2カ月後の5月半ば、1〜3号機ともに炉心溶融していたと突然発表しました。NHKニュースの《1〜4号機 冷却の状況は》に公式な状況説明がまとまっています。「燃料は原子炉の底にたまり、一部は原子炉を覆う格納容器にまで漏れ出ているとみられ」が1〜3号機に共通した認識です。溶融核燃料が格納容器に広がっている点だけでも、原子炉圧力容器の温度を100度以下にする「冷態停止」目標が無意味であることが明白です。圧力容器に残る核燃料が少なければ少ないほど温度は低くなります。そして、燃料が落ちている格納容器の底部の温度は測る手段がありません。

 毎日新聞が《福島第1原発:京都大原子炉実験所・小出裕章助教に聞く》を9日、リリースしました。「炉心に水がなければメルトダウンは避けられないし、圧力容器の底も抜け、溶けた燃料の溶融体が格納容器を損傷する可能性もある。その場合、溶融体が原子炉建屋の床を突き破って地面に潜り込んでいる事態もありうる。海洋や地下水に放射性物質が拡散しているかもしれない。溶融体が地下水に接触しないよう『地下ダム(遮水壁)』の建設を進めるべきだ」。小出さんはずっとこう指摘してきたのですが、政府・東電は5月までは「原子炉圧力容器には半分、水がある」、現在は「格納容器は健全」といずれも根拠に乏しい主張を繰り返しています。

 在京マスメディアは正面から疑問を投げつけるべきなのに、そぶりも見せません。国、つまり霞ヶ関がどう考え、どう動こうとしているのかの情報をいち早く東京本社にもたらす者が優秀な記者であるとされてきました。霞ヶ関との密着は社内出世のタネでした。それが常識の編集幹部には、重大局面で国に誤りありと正面から唱えるなど論外なのです。現在もなお続いている「大本営発表」報道はこうした構造から生まれています。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー

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