第286回「『福島農業の未来見えず』地元農家の深刻告白」

 毎日新聞が《福島第1原発:大量のふん尿…畜産農家限界 福島・中島村》でセシウム汚染により肉牛農家と耕作農家の相互供給が絶たれたために起きた絶望的状況を報じました。この事態に原発30キロ圏内からの「農家の婿のブログ」が「福島農業はどうなるんだろう」で表だって言えなかった事実、農業者の本音を告白しています。

 毎日の記事冒頭はこうです。「たまっていく排せつ物の中で動けなくなった牛たちが、じっと飼い主を見つめている。東京電力福島第1原発から70キロ離れた福島県中島村。原発事故により野菜農家が作付けをあきらめ、肉牛農家が堆肥(たいひ)の提供先を失って大量のふん尿を抱えたまま行き詰まっている。放射性セシウム汚染による肉牛の出荷停止が解除されて2カ月余り。福島の農業が崩れつつある」

 セシウムの暫定許容値を下回っても耕作農家は敬遠しがちです。「県からはふん尿を牛舎の外に出し、別の場所で適切に保管するよう助言されているが、『周囲に住宅が多く、無理に野積みすれば公害になりかねない』と頭を抱える。県によると、同じような状況に追い込まれている畜産農家は少なくない」

 事実上、肉牛農家は詰んでいるのです。また、耕作農家にしても土壌の質を維持するための堆肥を遠く県外から求めるのは費用面で大変です。

 「農家の婿のブログ」は「農業は地産地消の各業連鎖です。畜産の堆肥を畑に入れ、畑から出る廃棄物を家畜が食べる。この循環が崩れるとTPP言ってるときにコストが跳ね上がる。もうその循環は崩れ始めています」と指摘します。そして「ウチから出る廃棄物は産業廃棄物扱いでいいのか・・? もしかして放射性廃棄物なのか・・・?」と農家は悩んでいるといいます。

 「上記の堆肥なんて1例でしかないですよ。キノコ農家の培木やら何やら、ウン万ベクレルの葉物を漉き込んでしまった畑。半値まで下がってる商品価格。引き取ってくれないクズ米」「放射性物質が山から少しずつ川に流れ、その水を引いてる豚屋さん。増えすぎた在庫を抱えて爆死寸前のJA福島」「かさばる検査費。溜まるストレス。減る資金」

 「個人では限界があるんですよ。どうやって動くか全体で決めて全体でやるしかないのに、決定者が責任を怖がって何もしないもんだから、問題だけが綺麗に残っていきますね」「個人では無理なのに、補償や支援もまだわからない」「農協は知らんぷり、知事はドM政策」と切り込んだ上で、こう結ばれています。「福島の農業は終わったというつもりは全然ありません。ていうか思ってたとしても言いたくないし」「でも今、今現在は、僕みたいな凡人には、福島農業の未来が見えません」

 このブログは9月の「農家の内部被曝の議論ってやんないの?」でも、セシウムを吸着した汚染土にまみれて農作業する人のことを考えているのかと、注目すべき指摘をしています。

 「耕す時ってトラクターを使うんです。アタッチメントはロータリーです。土に空気を含ませなきゃなので、結構いっぱい耕します。土をふんわりとさせます。畑をロータリーにかけるとですね、ものっっっそい土ぼこりが舞うんですよ」「普通に吸ってますから近隣住民、数千から数万ベクレルの土壌から出た埃をね。そんでさらに言うと、土を吸う機会なんて他にも腐るほどありますね」「そういう議論が全く聞こえてこないのは僕の気のせいでしょうかね。まあそりゃあお偉いさん方にとっては、我々クラスなんて単なる消耗品なんでしょうけど、実はこれでも家族がいたりするんですよね」

 「がんばろう」の精神論だけではどうにもならない福島農業の未来を考えるべき時間は、この8カ月近く空しく浪費されてきました。いや、問題点を露わにすることを避けてきたと言うべきでしょう。

 【参照】「今年の福島県産米を食べるべきか考えたら」