第301回「中国経済成長が低下する真実味と大きな影響」

 中国経済の先行きに黄信号との警告論調は前々から出ていたものの、2月に入ってにわかに数字として具体化して来た観があります。気になったので、どのように語られているか、データの真実味と影響をまとめておきます。

 まずは2月上旬の国際通貨基金(IMF)による中国経済見通しでしょう。ロイターの《中国成長率、世界経済後退なら予想の半分に低下の恐れ=IMF》は《欧州債務危機により世界経済がリセション(景気後退)に陥った場合、中国の2012年成長率は予想の半分となる4%台に低下する恐れがあると警告した。IMFは1月、基本シナリオに基づく中国の2012年の成長率予想を8.2%とし、これまでの9.0%から下方修正した。これに加え、この日公表された見通しでは、世界経済の「下方」シナリオの下では、成長率がさらに8.2%から4%ポイント低下するとの予想を示した》と伝えました。

 続いて3月10日、2月の中国貿易統計が314億ドル(2兆6000億円)の巨額赤字と発表されました。実務的には春節時期の影響を除くため、1〜2月を合計して42億ドル(3485億円)の赤字が焦点です。ロイターのコラム《中国、経済構造変化で貿易赤字が日常風景に》は根深い変化が起きていると指摘します。「国内総生産(GDP)の約40%を貿易が占め、この比率は欧米の3倍だ。そしてこれまでは貿易の大半は、最終的に輸出される製品の原材料や部品が占めていた。輸入後に安い労働力でわずかの価値を付けて再輸出していたのだ。しかし中国が裕福になるにつれて労働コストは上がり、国内消費が増えている」「ほとんどすべての輸出が加工製品で占められているときには貿易黒字を維持するのはたやすい。だが、輸入経済の勢いが増して輸出貿易から離脱するようになれば、毎月の貿易統計がたびたび赤字となるのを避けるのは困難になるだろう。今回の貿易赤字は来るべき未来の前兆なのだ」

 続いて出た、The Economistの《製造業:安い中国の終焉》は「コンサルティング会社のアリックスパートナーズは、興味深い推計を示している。中国の通貨と輸送費が年間5%ずつ上昇し、人件費が年間30%上昇すると、2015年までに、北米でモノを生産するコストは、中国で生産して北米に輸送する費用と同程度になるというのだ(図参照)」と、従来の考え方による中国でのアウトソーシングが無効になる時期が迫るとしています。ただ、これだけ整備された部材のサプライチェーンは捨てがたいので、ベトナムなどに行かず製造工程を自動化しても中国に残る動きも紹介しています。

 前々から批判的な論調だった石平氏の《中国経済成長の終焉 2012年は冬の時代》は次のような厳しいデータを並べています。「成長の象徴である自動車市場の場合、10年の全国の自動車販売台数が前年比32.44%だったが、11年は2%台にまで激減した。そして今年1月の新車販売台数は前年同月比で26%減となったと中国汽車工業協会は発表」「鉄鋼業界の利益率は04年の8.11%をピークに下降し、10年は2.57%と、全国の工業各野の中で最低レベルとなり、11年にこの数値がさらに下がった。今年に入ってからも、鋼材市場は消費が伸び悩み、価格は継続的に下落する一方、在庫だけは急速に増えている」

 冒頭のIMF見通しが欧州経済の混迷を前提にしているのですから、中国経済が急減速する事態になれば、日本経済にとっても逃げ場はありません。対中輸出が減って成長のエンジンを片方もがれたようになるでしょう。米国にとっても景気に大影響があり、また中国に貿易赤字が頻出する事態は外貨準備として米国債を買ってくれていた大スポンサー消滅を意味するので一大事です。急ブレーキが掛かった時に、中国政府がリーマンショック後のような強引な浮揚策に打って出られるか、高度成長が終わってからも財政出動を繰り返して失敗した日本のようになるのか、ウオッチが欠かせません。

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