過去の検証無しに原子力規制替えする愚かしさ [BM時評]

 経済産業省原子力安全・保安院と原子力安全委員会が組織替えで原子力規制庁になる直前、原子力防災強化を巡る両者の衝突が表面化しました。2006年に原発重大事故に対応するため新たな国際基準に合う予防防護措置区域を設定しようとしたら、保安院が強硬に反対、結局は見送られました。福島原発事故の過去責任を問わない政府の姿勢が全てを曖昧にしてきて、埋もれている問題は山積と疑わせます。個々の問題所在を明らかにしない原子力規制強化のため組織替えが、役に立つはずがありません。

 毎日新聞の《原発防災強化:「寝た子を起こすな」保安院》は《当時の広瀬研吉保安院長(現内閣府参与)が強化に着手した内閣府原子力安全委員会の委員に対し、「寝た子を起こすな」と反対していたことが16日、安全委への取材で分かった。保安院の組織的な関与が明らかになった》《安全委側は、原発から半径3〜5キロにPAZ(予防防護措置区域)を設定するなど、02年に国際原子力機関が定めた新たな国際基準の導入意向は変わらないと伝えた。保安院はその後、安全委事務局に対し、文書や電子メールで導入凍結を再三要求》と伝えています。

 15日に安全委がウェブ「平成18年のPAZ等に関する防災指針見直しにおける原子力安全・保安院からの申し入れ、意見等に関する経緯について」で公開している文書はかなり大量で、無念さがこもっている感じがします。

 「保安院の意見、考え方を十分に確認せず、一方的に防災指針の改訂の検討を開始したことは、原安委管理環境課の不注意と言わざるを得ず、原安委管理環境課の責任として、保安院の考え方を十分斟酌して検討すること」と申し入れされているのですが、安全委と保安院は対等の関係にあり、安全について検討を開始することまで「伺いを立てろ」とは奇異に映ります。保安院から安全委事務局に職員が出向して実務を切り盛りしている実態から、安全委を指揮下に置いていると錯覚しているのでしょう。

 過去の問題点を克服する仕組みを持たずに、新しい原子力規制の在り方がこれまでと違ってくる保証はありません。海外からも日本は規制組織の確立が出来ないと見なされています。国会でも原子力規制庁への異議が表面化しています。こうした状態ならば国会の事故調が要求しているように、夏に事故調査報告が出るまで規制組織替えを凍結すべきです。

 【参照】「福島原発事故責任の曖昧化は再発を許す道」
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