第313回「インドの大失速が理解できる材料が出そろう」 (2012/08/19)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 インドの人口が十数年先で中国を抜いて世界一になるのは確実なものの、経済大国として君臨する可能性は乏しいと考えるべき背景データが出そろってきました。開発独裁の中国ですら順調に経済を拡大し続けるのは世界にある各種資源の限界からみて難しいのに、発展の準備が内側に出来ていない世界最大の民主主義国家インドは非常に厳しそうです。最近のニュースでは《インド、2012/13年度の成長率見通しを6.7%に引き下げ》ですが、象徴的なのはこの夏、6億人を巻き込んだ大停電でしょう。

 財経新聞の《インドのブラックチューズデー(大停電):2012年7月31日》は計画目標の半分しか発電設備が出来なかったと伝えます。「人口の50%を占める推計約6億人が電気の供給を断たれたこの大規模な事故は、インドの電力系統がここ10年に渡って逼迫状態であったことを明確に示しています」「送配電ロスと電力の盗難(無断使用)は依然として発電量の20%に近い割合を示し、設備発電容量の拡大は国の必要量を満たすに至っていません。過去の5カ年計画で打ち出された目標はほとんど満たされておらず、過去3期の計画容量は推計必要量を下回り、有効設備発電容量の実現率は50%に落ち込んでいます」

 実は偶発的な大停電が問題というよりも、長時間停電が日常になっています。インド南部、人口110万人の古都に嫁いでいる女性のブログ『マドゥライから』の「2011国勢調査結果からインドの現状を知る」が訴えます。「想像してみてください――日本の6月から9月に掛けて、週末も含めて、朝6時−9時▼正午−午後3時▼午後6時−6時45分▼夜8時15分−9時▼夜10時30分−11時15分▼夜中3時15分−4時――毎日これだけの停電が会社・病院・学校などで実施され、停電中は扇風機も電気も使えません。しかも、猛暑時期には、さらに停電状況は悪化するのです」「急激な発展を遂げている故の電力不足で、こんなことは今までにない状態。しかし、インドの発展のために日本を含め、さらに多くの外資系企業が南インドへ工場などを建てているため、電力需要は増すばかり」

 2011年国勢調査によれば電気が来ている世帯は全国で67%しかありません。工場を造り、商品を生産する上で重要インフラである電力供給が既に破綻しています。政府に電力供給を正常化する力は乏しいようです。緩やかな発展に慣れてきた政治家・官僚組織が、中国のような土地まで取り上げ放題の開発独裁体制ではないのに、急速発展に適応できると考える方が無理でしょう。民主主義の手続きを踏むならゆっくりと進まざるを得ません。電力ばかりでなく、穀物生産でもサイロが整備されていないので、収穫量の1割以上は腐らせてしまうと言われます。

 教育面の立ち後れから膨大な若い労働力を生かせそうにないとするのが、英フィナンシャル・タイムズの《インド株式会社は決して中国に追い付けない》です。「インドは、深刻な栄養失調状態にある世界の子供の約半分が暮らしている国だ」「一方、中等教育(質にばらつきがある)を受けているインド人はわずか23%に過ぎないが、中国ではその割合がインドの2倍を超えている。中国は大学を卒業する若者を増やそうと奮闘しているのに対して、インドはいまだに、若者が初等教育から落ちこぼれないようにするという問題に取り組んでいる」「2011年の調査では、インドの第5学年(10歳)の生徒の半分が、3歳年下の生徒向けの文章を読めなかったことが明らかになった」

 フィナンシャル・タイムズは5月にも《[FT]失速するインド経済、政府は自由化推進を(社説)》を掲げて、ルピー安がインフレに拍車を掛け、経済を落ち込ませているとしました。「インドの失墜の象徴がルピーだ。ルピーは今年、対ドルで17%以上下落し、史上最安値を記録した。通貨安は本来、少なくとも輸出の助けになるはずだ。実際には輸出は、3月に3.5%減少した工業生産とともに落ち込んだ」「ルピー安のせいで石油などの輸入品は高くなった。おかげで国内総生産(GDP)比約4%と既に憂慮すべき水準にある経常赤字は一段と拡大した。ルピー安はインフレにも不利に働く。インドのインフレはきちんと制御されたことがなく、今では再び7%台に達している」

 規制や労働環境が面倒なインドに工場を造るくらいならば、隣国バングラデシュの方が手っ取り早いとの声も聞かれます。暴動が起きたスズキのインド子会社マルチ・スズキのマネサール工場は再開されますが、少なくともインフレの進行に見合う賃上げは欠かせないはずです。見え始めた歪みだらけの全体図はどこから改善に着手すべきか判然とせず混沌としたものです。強力な改革志向政治家がもし現れたとしても、10億を超える民を動かすカリスマ性が無ければ単なる「大風呂敷」に終わります。しかも、粗衣粗食を通した独立の父ガンジーが残した言葉「インドが英国のようになれば地球がいくつあっても足りない」の先見性は21世紀の今、中国の発展まで射程に置きながら輝き出しそうなのです。

 【参照】第304回「インド国勢調査と経済大国予測のギャップ」
   第298回「インドの大気汚染は中国以上で世界最悪の報道」
   インターネットで読み解く!「インド」関連エントリー

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