科学者の責任に余波、地震学者実刑判決理由 [BM時評]

 イタリア・ラクイラ地震について地震学者6人が禁錮6年となった判決理由が公表。「地震予知に失敗した」からではなく政府と癒着して法に定められた通りにしなかった認定です。原発など類似ケースに波及ありです。昨年秋の判決後には世界中から様々に考えるアピールが出ました。例えば日本地質学会は「ラクイラ地震裁判における科学者への実刑判決を憂慮する」声明で「もし優秀な地球科学者が、地震危険度評価に善意で参画した結果として、その後に発生した地震の災害に対する責任を取らなければならないなら、将来だれがこの重要な役割を引き受けようとするだろうか」と根源的な疑問を投げています。

 300人以上の死者を出した地震です。朝日新聞の「政府との癒着を厳しく指弾 伊地震学者への有罪判決理由」が詳しく伝えています。《群発地震が続き、「大地震が来る」という在野の学者の警告がネットで広まっていた。市民の不安を鎮めようと政府防災局が開いた検討会で、学者らは「大地震がないとは断定できない」としつつ、「群発地震を大地震の予兆とする根拠はない」と締めくくった。検討会の前後にデベルナルディニス氏は「安心して家にいていい」と述べた。判決理由はこうした経緯を認め、ボスキ氏ら学者が以前からラクイラ付近での大地震を予測していたことを指摘。検討会でのリスクの検討は、知見をすべて提供しない、表面的で無意味なものだったとした。「メディア操作」を図る政府に学者が癒着し、批判せずに従ったことで、法や市民によって課された「チェック機能」としての役割が失われたと厳しく批判した。「被告らの怠慢が市民に安心感を広げ、慎重に対応していれば救えた命を失わせた」と認定した》

 《「地震予知に失敗した科学者が裁かれた」との誤った認識に釘を刺す意図からか、「裁判は、地震についての知識の正しさ、確かさを証明することを目的としていない。法に定められたとおりのリスクの検討がなされたかどうか判断した」と記している》と補足しています。

 行政との癒着事情については、東大地震研助教の大木聖子さんが「ラクイラ地震 禁錮6年の有罪判決について(4)なぜ『安全宣言』になったのか」で詳しいリポートを書いています。検察提出の電話テープのやり取りからは「行政はパニック状態の市民をおさめるために,はなから安全情報を出すつもりだったこと,そしてそれは行政判断ではなく,科学者からのお墨付きという形で遂行することを,委員会を開催する前から決めていた」としています。

 実に我々の目の前で地質学者が重要な決定を下そうとしています。各地の原発の直下を通る断層が活断層かどうかの認定です。活断層と認められば運転再開はなく廃炉に進むしかなくなります。逆のケースで将来、運転中に断層が動いたら、判断を誤った学者の責任は問われるのか、です。福島原発事故では事故の進展過程で原子力安全委の専門家によるミスリードを呆れるほど見ました。あれが不問になっているなら地質学者は大丈夫でしょう。しかし、炉心溶融や水素爆発に至る、原子力専門家によるミスリードは不問のままでいいのでしょうか。しかし、しかし、ミスリードは知識不足に起因していて、知らない本人はベストを尽くしていたのが実態かも知れません。それでも、信頼できる専門家を呼び寄せるくらいの「注意義務」を求めていいのでは……。ラクイラの責任追及では、行政マンと科学者は分けるべきだとする議論もありました。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー