東アジアの国際結婚ブームは去ってしまうのか [BM時評]

  《2013年2月WEBRONZA掲載:2017年9月転載》
 21世紀に入って国籍の壁など吹き飛ぶのではないか、とも思わせた東アジアの国際結婚ブームが急速にしぼみつつある。最新2011年統計では、2005年に結婚件数の13.6%もが国際結婚だった韓国が9.0%に、2006年に6.1%だった日本が3.9%まで落ちた。何が起きているのか調べてみると、日本については実質経済成長率の増減に支配されていると判明した。韓国の成長率は日本より高いからなお意欲的と考えられるが、ベトナム人妻の悲劇などがあって韓国・ベトナム両政府が規制を始めた。嫁不足トレンドの根底は経済発展によりアジアの都市女性が自立し、結婚しなくなった点にある。経済成長著しい上に、一人っ子政策の影響で男女比が男に偏している中国の男性がどう動くか注目だが、断片的な情報しか伝わってこない。  人口動態調査などから作成した、日本の過去20年間の国際結婚数と経済成長率の推移グラフである。相手国籍別の動向を見るにはグラフ下部を利用して欲しい。夫婦どちらかが日本人の国際結婚数は2011年には1990年代始めレベルまで下がってしまった。その1990年代に何があったのか――このグラフで一番の注目は、消費税増税のあおりでマイナス成長に落ち込んだ1998年からの動きである。実質経済成長率の動きを1年遅れて国際結婚数が追いかけているのは明瞭だ。途中で変化が起きて、2005年の成長やや停滞にもかかわらず結婚数が伸びた。このころフィリピン、中国、ロシア、インドネシアから年間13万人前後の若い女性が興行ビザ(タレントビザ)で入国、全国各地の夜の街で男女の接触が増えたからだ。それがアメリカ国務省の人身売買報告書(2004年)で非難されてからビザ厳格化が進んで、フィリピンやその他の国との国際結婚が激減していった。

 タレントではない女性を排除する興行ビザ規制の影響が去っても減り続ける国際結婚数は、最初の傾向に戻って実質経済成長率の動きと連動している。リーマンショック後の2010年には、あまりに大きかった落ち込みの反動で数字だけはプラスに戻っても庶民の懐感覚はマイナスに振れたままである。このグラフで見ると、実数が大きい中国人との国際結婚数の推移が、1年遅れで経済成長率の動きをよく追いかけているのが読みとれる。2001、2002年の経済停滞がきれいに反映されている。第344回「急速に縮む国際結婚の謎判明:経済成長率に依存」を見ていただくと、過去の経緯や参照記事リストがある。

 2月11日のソウル聯合ニュースによると、2002〜2011年の10年間に韓国の国際結婚は32万6794組、この内、外国人妻が24万5362組だった。同時期の日本がそれぞれ36万5386組、28万4993組だったのだから、人口が日本の4割ほどしかない韓国でいかに国際結婚が盛んだったのかが分かる。経済発展から取り残されがちな地方ほど顕著であり、2005年には農村地域の男性の35%が国際結婚だったと報じられた。外国人妻の国籍は中国が53%を占めるものの多くは中国に住む朝鮮族であり、顔つきも言葉も韓国人と変わらない。2位ベトナムが5万9687人、3位フィリピン1万3785人と大きな数になって、本格的な外国人妻との共生が問題化した。

 2010年7月に釜山で、20歳のベトナム人女性が結婚1週間で夫に惨殺されて社会問題になった。事前の説明が貧弱で、話が違うと外国人妻が支援団体に駆け込む例も多い。もちろん韓流ドラマのような華やかな生活が待っていることなどない。国際結婚斡旋業者に頼む際、韓国人男性は10歳から20歳も年下の女性を好むために、「一種の人身売買」と国際的な非難を受けている。2011年に韓国の国際結婚が大きく目減りしたのは、韓国とベトナム両国で規制が立ち上がったためだ。韓国の実質経済成長率は2011年でも3.63%あった。

 韓国人男性にとって昔のように中国朝鮮族の女性を迎えられれば問題なかったのだが、中国の経済発展で中国語も朝鮮語も使える朝鮮族女性は引っ張りだこになってしまった。英エコノミスト誌は2011年8月の記事『激変するアジア社会:結婚しない女性たち』で「多くのアジア人は結婚を先送りしているのではない。一生結婚しないのだ。日本では、30代前半の女性の3分の1近くが未婚で、恐らく、その半数は今後も結婚しないだろう。台湾では、30代後半の女性の5分の1以上が未婚で、その大部分が一生独身だ」「さらに未婚率が際立っている場所もある。40〜44歳の女性の未婚率は、タイのバンコクでは20%、東京では21%に上る。シンガポールでは、この年齢層の大卒者は27%が結婚していない」と職業を持ったアジア女性の状況を描いている。

 女性1人が生涯に産む子供の数「合計特殊出生率」が2004年に日本で1.29まで下がって騒かれたのに、韓国は1.16、台湾1.18、シンガポール1.24、香港0.93とアジア工業国(地域)は一段と低い。欧米と違って婚外子があまりいないアジアだから、この数字は非婚化の進展を表している。この数字が「2.1」はないと人口は減少していくので、アジア工業国は日本以上の猛スピードで高齢化社会に突き進んでいることになる。結婚したい男性にとって困った社会情勢だ。

 一人っ子政策と人工妊娠中絶で男女比のバランスを大きく狂わせてしまった中国がどうなるのかが、次の焦点かもしれない。自然な状態ならば男105人に対し女100人の赤ちゃんが生まれるはずが、中国は男120人に女100人と言われている。人民網日本語版が2012年末に『男女比不均衡、新たな人口移動問題を誘発 中国』でこう伝えた。人口問題を研究する米国NPOの推計によると「中国では現在、結婚適齢期を過ぎてもパートナーが見つからない独身男性が4100万人に上るという。この数値は、今後10年以内に5500万人に増える見込み。中国では現在、多くの男性が農村から都市に移動している。その目的は、妻となる女性を探すことだ」。日韓両国で起きたこれまでの嫁不足とは桁違いの数字に驚かされる。独身男性の膨大な増加は新たな社会不安を生む可能性が指摘されている。

 日本や韓国のような国際結婚の統計を中国の報道から見つけるのは難しい。しかし、中国周辺で発生している人身売買事件から嫁不足に悩む中国独身男性との結婚強要が出てくる。レコードチャイナの1月の記事『ミャンマーで女性の人身売買が横行、8割が嫁不足の中国へ売られる―ミャンマー紙』がそのひとつである。「高収入が得られる」と中国に連れ出すなどの手口で、ミャンマーで過去6年間に起きた人身売買731件中、585件が中国と関係し、警察が中国から780人を救い出したが、広大な中国に散らばっている女性の多くは救出困難とされている。それが何人なのかは書かれていない。1件が10人としても相当な人数であり、中国の子供を誘拐して強制労働させる事件が摘発されると千人を超える被害者が判明する国柄なので、隠された人権抑圧は多いはずだ。

 日本では1980年代から地方の嫁不足を補う形で国際結婚が増えた。言葉や習慣が十分に分からない外国人妻が家庭や地域社会にとけ込むには、やはり障害があった。悲劇の一つとして、2006年に滋賀県であった中国籍の妻が近所の幼稚園児2人を刺殺した事件を記憶されている方が多いだろう。しかし、最近の国際結婚例が企業の海外進出などをベースにした自然な出会いに変化しつつあるのは間違いない。日本の経済成長率が回復して、雇用や賃金の条件が改善されれば東アジアの国際結婚ブームはまた新しいフェーズを迎えうる。嫁不足が極端な中国の動向と並んで、ここ1、2年の動きが注目である。