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第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」 (2013/04/17)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 中国南東部から北部の北京まで広がった鳥インフルエンザが本格的な感染爆発、パンデミック前夜の様相です。野鳥からも発見、鳥には弱毒なのに人は重篤の特性に加え、中国の貧しい医療事情から患者潜伏の可能性あり。16日までに公表の感染患者77人、死者16人で本当に網羅しているのか疑問が残ります。新型インフルエンザで記憶に新しい2009年のH1N1型は、過去に流行したウイルスと共通部分があって高齢者を中心に免疫が残っていましたが、今回のH7N9型は人間にとって全くの新型です。感染を広げながら進化するウイルスの特性も睨みながら、ウイルスが苦手とする夏まで目が離せません。もし日本に来るならば都議選があった4年前と同じ条件になり、「新型インフル5千人。お寒い都の監視体制」で指摘したように、公式発表と違い7月まで患者発生は続きました。


 人民網の「H7N9型最新情報」などで公表の感染・死亡データをグラフにしました。13日に北京で初めて7歳女児の患者が見つかりました。15日にはこの関連で4歳男児からもウイルスが検出されたニュースが流れましたが、潜在患者として扱われ、グラフの数字に入っていません。最も多いのは上海市の患者30人、死者11人で、周辺の江蘇、浙江、安徽の3省が続きます。14日に内陸部の河南省でも2人の患者発生が報告されました。16日には中国農業省から南京市の野生のハトからウイルス初検出が発表されました。

 少数の回復者も出ていますが、概して症状は重いようです。医学誌に投稿された52歳女性の進行状況を、日経メディカルの「中国のH7N9型鳥インフルエンザ、死亡例の臨床像が明らかに」から引用します。「第1病日=悪寒と発熱40.6度で発症。他の症状はみられず。服薬せず」。第2病日に救急受診するも投薬のみで帰宅。「第3病日=胸部X線施行、右下肺野に斑状陰影。抗生剤の経静脈的投与が3日間行われている。咳や呼吸困難は認められず」。そして、第7病日に「咳、呼吸困難の症状が急速に悪化し」転院。この時点で急性呼吸不全を伴う「重症インフルエンザを疑われ、気管内挿管・人工呼吸器開始」。そして呆気無く第8病日には「抗生剤・免疫グロブリン・ステロイド継続するも状態悪化」し死亡です。H7N9型感染と確定したのは、その翌日でした。

 重症インフルエンザを疑った時には既に手遅れになるのは、これまでの常識に反しているからです。抗ウイルス剤投与の機を逸しています。「要注意! H7N9はステルス型インフルエンザウイルスだ」がこう指摘します。「今までの新型鳥インフルエンザウイルスの対策は、暗黙の前提として鳥などの中間宿主に対しても強毒性のウイルスを想定していました。鳥や豚などの大量死の報告を受けて、ヒトへの感染を防御する対策を打つ、というのが防疫の手順でした」「WHOによれば、近代的な疫学研究が始まって以来、H7N9は鳥などの中間宿主に対して弱毒性インフルエンザウイルスがヒトに感染し、強毒性を示した初めての例となりました」

 日本の常識ではあり得ない話になりますが、治療費が患者自己負担になっていると、「上海市の隠蔽工作疑惑が浮上=鳥インフルエンザについて今わかっていること―中国」(kinbricksnow)が伝えています。「H7N9型鳥インフルエンザにかかると隔離病棟に入れられるということもあってか、1日1万元(約15万円)以上という法外な治療費が必要になるという」「南京市の感染者は治療費が支払えないため家を売る予定とも報じられた。これほどの治療費を支払える人はそうそういないし、死んでもいいから自力で治すことにチャレンジする人も多そうだ」

 「ヒト・ヒト感染が確認されていないため、SARSほど危険な病気ではない」というのが、無償治療にしない当局の説明のようです。毎月数万円で暮らしている人が普通なのに、社会全体の防衛を考える意識の無さにおそれいります。上海市が2月に新型ウイルスの端緒をつかみながら、グズグズしていたのも3月に北京で新指導部選出の全人代が開かれていたから遠慮していた疑惑があります。新型の封じ込めには立ち上がりを徹底的に叩くしか無いとされているのにです。

 最初の患者が出た上海など中国南部地域は新型インフルエンザの「火薬庫」です。人と膨大に飼われている豚と家禽類が日常的にかつ濃厚に接触しているために、種をまたぐ感染を起こす新型が生まれやすいからです。4年前には感染爆発と言えるほどの規模にはなりませんでしたが、今度の新型は中国国外に出るようなら非常に危険です。ブルームバーグの「中国の鳥インフル拡大なら世界的流行の恐れも−シノバック」が中国ワクチンメーカートップの意見として《今回の鳥インフルエンザの感染が「パンデミックとなるリスクが高まっている」と述べ、03年から広がった「H5N1型」ウイルスと比べると今回は「ずっと深刻な発生状況」だとの認識を示した》と報じています。

 【参照】インターネットで読み解く!「インフルエンザ」関連エントリー

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