自炊代行違法判決で非破壊スキャン機普及に拍車か [BM時評]

 電子端末で読書するための画像変換「自炊」を業者に代行させるのは違法と、9月末に東京地裁が判決を出しました。著作権法の判例から予測できた判決で、これで非破壊スキャン機の改良と普及に突き進む予感がします。代行サービスの場合は本の所有者が背の部分の裁断とページのスキャンを依頼します。スキャンした裁断原本を廃棄する原則を守れば「本」の数は増えません。今年夏、登場した非破壊スキャン機は図書館から借りた本からでもスキャンした「画像本」を作ってしまいます。代行業者の駆逐が、裁判に訴えた作家ら著作権者にとって本当に良い選択だったのか疑問です。何しろ日本のメーカーは狭い市場でもニーズがあると認識したら、安くて便利な機械に進化させるのが得意なのです。

 著作権法が許している私的複製に、著作物を所有している利用者の代行サービス依頼が当たるかが問題でした。公開された判決文は極めてオーソドックスで、身も蓋もありません。「複製の対象は利用者が保有する書籍であり,複製の方法は,書籍に印刷された文字,図画を法人被告らが管理するスキャナーで読み込んで電子ファイル化するというものである。電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容,程度等をみると,複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが,その後の書籍の電子ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり,利用者は同作業には全く関与していない」

 裁判官は過去の判例の積み重ねから逸脱できません。当然ながら違法の判断になり、一部の業者は不服として控訴を表明していますが、ひっくり返す展開は非常に難しいでしょう。

 7月に発売された非破壊スキャン機について『書籍流通に大波乱か、非破壊スキャン機が登場』で、予約段階で定価59800円から5万4千円前後に下がったと伝えました。価格コムの「ScanSnap SV600」価格推移を見ると、現在は最安値が更に9千円も下がって、4万5千円を割っています。需要の旺盛さを表していますし、次の新製品が見え始めているのかもしれません。

 実際に使用した人の意見があちこちで読めて、やはり本のページをめくっていくのが煩わしいようです。それでも代行サービスに頼んで蔵書のかさを減らしたい人なら、自宅にアルバイトを頼んででも処理してもらう利便性はありそうです。もちろん、技術開発でページめくり装置ができれば申し分ありません。図書館の蔵書を高速高精度で画像化するシステムが動き出していますが、あちらは値段が千倍くらい違います。多少はスピードが遅くても何とか安価に考案してしまうのが日本なのですが……。

 非破壊スキャン機が家庭や職場などにかなり普及する事態になれば、単行本や漫画本などが大きな影響を受けざるを得ません。ちょうど、カラオケサークルの愛好家たちが歌手のCD新譜を買わずにコピーし合って居るような状態が起きてしまうでしょう。