第468回「中国大気汚染に女性記者がNスペ自作、視聴1億超」
深刻な中国大気汚染に欠けていた“NHKスペシャル”を中央電視台記者だった柴静さんが自主制作して公開。中国版ユーチューブでの視聴回数は1億を超え、コメントが1日で5万以上と熱狂的に迎えられています。語りや表情までNHKキャスター国谷裕子さんを連想させる細身の柴静さんが、2000万円と言われる私財を投じて作った104分のドキュメンタリーです。重篤スモッグが注目された2013年から関心を持って追っていますが、中国側にまともな報道番組が出ない不満を持っていました。あのような独裁体制の国だから出来なくて仕方がないかと思っていたところに、汚染源に当たる企業、業者までほとんど実名で登場、政府や大手国有企業も批判してしまいます。
写真は重症患者の映像を語る柴静さんで、ユーチューブの記録ビデオ「穹頂之下」から引用しました。
10年前、山西省の空が石炭採掘で暗く汚れていた取材経験から、現在の全国的な大気汚染状況まで語っていきます。科学的な分析を加え、微粒子PM2.5を中心にした汚染物質が体内に侵入する場面はかなり手間がかかったアニメを作っています。現場への直撃取材、専門家たちへのインタビュー、統計データや過去映像が豊富に使われ、中央電視台(CCTV)退職から1年がかりで制作したとはいえ、相当なチームを用意したと見えます。
ビデオに中国語の字幕は付いていますが、断片的にしか分かりません。日本語で書かれた解説記事《台湾メディアが報じる柴静の「穹頂之下」から見える習近平政権の思惑》をお勧めします。
調査を始めた動機はビデオから彼女自身の言葉です。《2013年1月の北京は、25日間「濃霧」の状態でした。当時、私は陝西省、河南省、江西省、浙江省に出張に出ていました。感じることができるのは喉だけです。それでも、空を見上げてみれば、25の都市と6億人を飲み込む大「濃霧」でした。北京に帰って来た後に、私は自分が妊娠していることを知りました。普通、女性にとって心踊る瞬間ですね。私は何も期待をしませんでした。彼女が健康で生まれてくれさえすれば、と》。《私はその後離職し、彼女を見守ることにしました。でも、帰り道、いつも怖かった。空気からは焚き火のような味がしました・・・。この「濃霧」は2カ月続きました。このことは、私にこの「濃霧」がすぐに無くなるものではないことを思い起こしました。10年前に山西省で生活していた時の空と全く同じだったのです》
解説記事の「編集後記」は《柴静には強力な後ろ盾があるはずです。国家のトップ級だと思います。そうでなければ、インターネット系とは言え、全国配信をこれだけ長い間できるはずがありません。また、人民網に声明を載せることもできません。むしろ、すぐに捕まるでしょう。この動画の中で攻撃されている対象は、大手国有企業です。特に鉄鋼、発電、石油関連、すなわち昔から非常に力が強かった超巨大な中央系国有企業です》と指摘します。
《画像の中に強烈な一言があります。中国石化の方がインタビュー上で、「もうどうしようもない。企業は太りすぎた。それも水ぶくれだ」と話す部分があります。当事者からこのコメントを吐かせるだけでも相当に強烈なインパクトがありますし、背景に巨大な力が動いていることが分かります》
北京で開幕の全国両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議)直前の時期に公開されて話題になった点も重要でしょう。昨年夏の第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」の冒頭でこう描きました。
《中国の大気汚染、微粒子PM2.5による重篤スモッグの改善は遅々として進まないと判明。環境保護法を改定し、門前払いだった裁判で環境訴訟を取り上げる準備はしたものの特定NPOしか訴えられぬ閉鎖的改革です。日本と同じ無過失責任の法体系をテコにして環境汚染源を封じていくには、広く国民の訴えを生かすべきなのです。ところが、民衆に自発的な行動力を発揮させるのは共産党指導部には怖くて仕方ないと見えます。官製のお仕着せ訴訟でぼつぼつ進むのでは済まないほど、空気も水も土地も汚染は深刻かつ広範囲です》
荒療治が必要と、権力を持つ側が判断し始めた可能性があります。第465回「中国大気汚染は北京より地方省都がずっと深刻」にあるように逃げ場がない全国スモッグに国民の不満は渦巻いています。
10年前、山西省の空が石炭採掘で暗く汚れていた取材経験から、現在の全国的な大気汚染状況まで語っていきます。科学的な分析を加え、微粒子PM2.5を中心にした汚染物質が体内に侵入する場面はかなり手間がかかったアニメを作っています。現場への直撃取材、専門家たちへのインタビュー、統計データや過去映像が豊富に使われ、中央電視台(CCTV)退職から1年がかりで制作したとはいえ、相当なチームを用意したと見えます。
ビデオに中国語の字幕は付いていますが、断片的にしか分かりません。日本語で書かれた解説記事《台湾メディアが報じる柴静の「穹頂之下」から見える習近平政権の思惑》をお勧めします。
調査を始めた動機はビデオから彼女自身の言葉です。《2013年1月の北京は、25日間「濃霧」の状態でした。当時、私は陝西省、河南省、江西省、浙江省に出張に出ていました。感じることができるのは喉だけです。それでも、空を見上げてみれば、25の都市と6億人を飲み込む大「濃霧」でした。北京に帰って来た後に、私は自分が妊娠していることを知りました。普通、女性にとって心踊る瞬間ですね。私は何も期待をしませんでした。彼女が健康で生まれてくれさえすれば、と》。《私はその後離職し、彼女を見守ることにしました。でも、帰り道、いつも怖かった。空気からは焚き火のような味がしました・・・。この「濃霧」は2カ月続きました。このことは、私にこの「濃霧」がすぐに無くなるものではないことを思い起こしました。10年前に山西省で生活していた時の空と全く同じだったのです》
解説記事の「編集後記」は《柴静には強力な後ろ盾があるはずです。国家のトップ級だと思います。そうでなければ、インターネット系とは言え、全国配信をこれだけ長い間できるはずがありません。また、人民網に声明を載せることもできません。むしろ、すぐに捕まるでしょう。この動画の中で攻撃されている対象は、大手国有企業です。特に鉄鋼、発電、石油関連、すなわち昔から非常に力が強かった超巨大な中央系国有企業です》と指摘します。
《画像の中に強烈な一言があります。中国石化の方がインタビュー上で、「もうどうしようもない。企業は太りすぎた。それも水ぶくれだ」と話す部分があります。当事者からこのコメントを吐かせるだけでも相当に強烈なインパクトがありますし、背景に巨大な力が動いていることが分かります》
北京で開幕の全国両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議)直前の時期に公開されて話題になった点も重要でしょう。昨年夏の第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」の冒頭でこう描きました。
《中国の大気汚染、微粒子PM2.5による重篤スモッグの改善は遅々として進まないと判明。環境保護法を改定し、門前払いだった裁判で環境訴訟を取り上げる準備はしたものの特定NPOしか訴えられぬ閉鎖的改革です。日本と同じ無過失責任の法体系をテコにして環境汚染源を封じていくには、広く国民の訴えを生かすべきなのです。ところが、民衆に自発的な行動力を発揮させるのは共産党指導部には怖くて仕方ないと見えます。官製のお仕着せ訴訟でぼつぼつ進むのでは済まないほど、空気も水も土地も汚染は深刻かつ広範囲です》
荒療治が必要と、権力を持つ側が判断し始めた可能性があります。第465回「中国大気汚染は北京より地方省都がずっと深刻」にあるように逃げ場がない全国スモッグに国民の不満は渦巻いています。