第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」

 中国が先進国になれるか、『中所得国の罠』に陥ってしまうかの分かれ目は製造大国から技術強国に変身できるかです。知的財産権無視のパクリ社会では独創性が困難である上に、構造的に阻まれる要因が見えてきました。形の無いものにはカネを払わない国民性です。人口ボーナス期が終わって生産年齢人口が減少に転じ、中国政府には焦りの色が見え「中国製造2025」計画で「2025年までに製造業の競争力をドイツ、日本レベルまで高めたい」と言い出しました。  国連統計から作成した、2050年までの中国の年齢別人口推移グラフです。生産年齢人口は15歳から64歳までが一般的ですが、中国の場合、都市部で決められた退職年齢が男性60歳、女性50歳(女性管理職は55歳)であり、均すと53歳程度と言われます。一方で年金制度が立ち遅れた農村部では高齢者はいつまでも農業をしているようです。退職年齢の引き上げが言われ始めましたが、新卒者の就職を阻むのでためらわれています。

 15〜59歳グラフを生産年齢人口の推移と見ると、2015年に減少段階に入って急速に減っていきます。2015年で60歳以上人口は15%、実数で2億人を超えます。2050年の段階では33%、4億5千万人に達し、15〜59歳は7億2千万人ですから現役1.6人で高齢者1人を支える恐るべき構図になります。日本との比較は第378回「日本に続き中国も超特急で超高齢社会へ突入予定」をご覧ください。

 一方、1995年から2010年にかけては生産年齢人口の急増があり、近年の中国の経済発展が人口ボーナスに負っているところが大であると知れます。人口ボーナスの立ち上がり期は改革開放以前で、まだ発展の準備が出来ておらず、チャンスを空費した点も見て取れます。十分に富む前に社会が老いてしまう恐れが語られる今にしてみると手痛い失着でした。

 昨年の第13次5カ年計画が中所得国を超えて高所得国を目指すとし、今年の「中国製造2025」計画が日独並みと言い出しますが、可能なのでしょうか。そもそも製造業の変調を指摘する報道があちこちで見られます。

 《中国製造業の衰退・・・「重大な危機に直面」=中国メディア》はこう伝えています。《中国国家統計局のデータを引用し、中国国内で製造業に従事している労働者の数も12年以降、前月比ベースで減少することが「常態化」していると伝えたほか、税収の伸びも同時期から鈍化していることを指摘し、「中国の製造業が重大な危機に直面していることを懸念せざるを得ない」と論じた。また、鉄道貨物輸送量も鈍化していると指摘し、「12年から前年比でマイナス成長になっている」と伝え、12年は前年比0.9%減、13年も同0.9%減、14年は同7%減だったと指摘、「これだけの指標が中国の製造業にとっての“曲がり角”が2012年だったことを示している」と伝えた》

 経済発展を続けるには粗製乱造から質的転換を図る以外にないのですが、中国の自主ブランド車の多くが自前のエンジンを持たない事実を知らされると首を傾げたくなります。《「三菱製エンジン」なくして、「中国ブランド車」はありえない!?=中国メディア》はこうです。《中国の自動車エンジンに関する技術が立ち遅れており、奇瑞汽車など自社で研究開発を行っている企業ですら世界のレベルから8−10年は遅れているとし、「成熟した技術を持つ三菱製エンジンを導入するほうが自社で生産するより安価で導入できる」と論じた》。これでは世界に向かって輸出する展開などあり得ません。

 中国のパソコンのOSはほとんどがWindowsXPの海賊版と言われます。具体的な形がないモノに金を払う習慣がありません。それが製造業発展に深刻な影を落としている例を《中国調達:見えないものにはカネを払わない中国》に見つけました。中国では機械を売った後のアフターサービスは無償でするしかないというのです。

 《日本国内では、カスタマーサービス部門は、一部の例外を除くと、競争にさらされることなく高収益を計上している。メーカーは本体販売の損失をカスタマーサービス部門の利益でバランスをとっている一面もある。実際、バイヤーの立場からしても、自社が受けるカスタマーサービス費を値切るというのはむずかしい。ところが中国では、その逆なのである。特定の顧客が支払を拒むのであれば、そのような顧客を相手にしなければよいが、どの顧客もそうなのであるから、そんなことを言っていたら、商売にならなくなってしまう。知的財産権の侵害でもそうだが、中国人は目に見えないもの、カタチの残らないものにはカネを払わないのである》

 《それでは、中国で逞しく商売しているローカルメーカーはどうしているのかというと、はっきり言って、彼らの商売は“売り切り御免”なのである。つまり、売ったあとのメーカーの供給者責任などという概念を持ちあわせていない》

 このような商売の仕方では製造業の技術を日本やドイツ並みにレベルアップするのは原理的に不可能です。不動産バブルの崩壊とか懸念が伝えられる中国経済ですが、真の危機は技術強国には到底なれない点にあると考えられます。国民1人当たりGDPが7000ドル近くに上昇し、1万2000ドルを超える高所得国になれるかは、資源浪費・環境破壊型の発展モデル転換も必要です。第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」で指摘した通り、これも遅々として進みません。