第492回「中国の妄想、市場の美味しい所だけ取り逃げ」

 3日連続で拡大する中国人民元切り下げを中国メディアは一挙両得感覚で伝えています。輸出産業へ支援になり、人民元国際化も果たすと。しかし、市場が思惑通りに動いて果実が手に入る場面しか考えていないようです。市場が逆流したらどうなるか、先の中国株暴落で手痛い目にあったのすら忘れ、美味しい所だけ取り逃げ出来るとの妄想が中国指導部を支配していると申し上げざるを得ません。一度、為替市場自由化を言い出したら、人民元高や想定以上の元安で苦しむ場面も必ず到来します。

 人民元の相場は中国人民銀行がその日、基準になる中間値を設定、上下2%の変動幅でしか取引を認めていません。その中間値設定を恣意的でなくして前日の終値近くにすると透明化したために、毎日最大2%ずつの切り下げが可能になりました。3日間では5%近い切り下げになっています。人民元はドルと組んで為替は安定していると思い込まれていただけに、世界的にショックが大きくなりました。

 中国網の《人民元の適度な切り下げは、一挙両得の措置》は新興国に及ぼすはた迷惑などお構いなし、《中央銀行は衝撃的かつ賢明な手段により、人民元の積極的な切り下げを実現した》と意気揚々としています。切り下げ1%で輸出は1%増加する一方、5兆円の資本流出になるとの推計があります。

 《中国が巨額の外貨準備高を保有する状況下、適度かつ積極的な人民元切り下げは、経済の安定という大局にとって有利であり、一国の通貨のソフトパワーを示している。また合理的な範囲内の切り下げは、資金の大量の外部流出を促さない。人民元の適度かつ合理的な切り下げは一挙両得の措置である。これによって、人民元相場が長期的に低下する可能性は低い》

 人民元高で苦しむ場面など考えてもいないのでしょうが、ブルームバーグの社説《中国自身も知らない人民元切り下げの意義−社説》は先行きの不安を指摘します。

 《今回の切り下げは中国の輸出を促し、海外からの輸入を割高にする景気刺激策の一形態でもあり、中国指導部が市場の力のプラス面を認めるには好都合なタイミングと受け止められる。こうした市場の力が先行き反転して元高方向に働き、中国の輸出部門が不利な立場に置かれるような事態となれば、同国当局はジレンマに直面する。その時に一連の疑問への答えは明らかとなるだろう。現時点では部外者は何が起こるか確信が持てず、中国指導部もたぶん分からないはずだ》

 中国社会科学院金融研究所の研究員による《なぜ人民元を切り下げた?・・・「輸出促進でも経済疲弊でもない」と政府系専門家見解》に本音が垣間見えるので引用します。

 《人民元が国際通貨基金(IMF)の国際準備資産SDR(特別引出権)の通貨バスケットに採用されるか否かのタイミングで、中国が切り下げを行ったのは「国内外の経済環境の変化を考慮してのこと」と主張。中国株式市場における大規模な実験は「失敗に終わった」と伝え、中国は金融市場の改革の道筋を変えようとしているとし、「改革の新たな突破口こそ為替制度なのだ」と主張した。さらに、中国の金融市場の改革における新たな突破口が「良い成果を収められるようであれば改革を深化させるであろうし、危険を伴うようであれば為替を通じた改革も限定的にとどまるであろう」と論じた》

 株で駄目だから為替で、しかし、本来の市場機能を活かすつもりはなく、手に負えなくなったら打ち切りの、腹が座らぬ愚かな姿勢です。先月の第490回「中国の無謀な株式市場介入に海外批判止まず」で示した世界からの批判と期待が実現することはないと見られます。中国国内でほぼ完結していた株式市場ならともかく、世界への影響が大きな為替市場で中国独善のマネーゲームが拡大するのは怖すぎると指摘します。