第493回「天津爆発、中国の安全管理は文明国レベルにない」
12日に天津で起きた大爆発事故は中国の安全管理が消防技術、社会制度、モラル崩壊、いずれも文明国レベルに達せずと見せつけました。暴露された体質の悪さから同様の危険が地雷原のように全土に拡散と思わせます。これまで原発や環境問題でウオッチしてきた以上に酷く、改善に向かって自律的に進むとは思えません。新聞記者をした経験で言えば漏れ伝わる実態は、早々にニュースになっているべきスキャンダルであり、言論の自由、取材と報道の自由が無い国に正常な発展はあり得ません。ところが、爆発事故当初にまず中国指導部がとった措置は国営通信社へのニュース発信一本化による報道統制でした。
TNT火薬にして3トン分くらいの爆発がまずあり、30秒後にTNT火薬21トン分の大爆発があったとされています。現場には直径100メートルの大穴が開いています。現場の危険物倉庫にどんな薬品がどれくらいあったか、事故1週間たってようやく伝え始められました。
人民網日本語版の20日付《天津爆発、危険化学物質の種類と量が公表 約40種類・2500トン》によると《危険化学物質は大きく3つに分けられる。1つ目は酸化物(硝酸アンモニウム、硝酸カリウム)で、計約1300トン。2つ目は可燃物(主に金属ナトリウムおよびマグネシウム)で、計約500トン。3つ目はシアン化ナトリウムを中心とする猛毒で、約700トン》です。
青酸ソーダとも呼ぶ猛毒シアン化ナトリウムについては許可貯蔵量の30倍以上と言われ、水が掛かれば爆発的に発火する金属ナトリウムや、爆薬の原料になり210度で爆発する硝酸アンモニウムにしてもこれほど大量に貯蔵しておくとは信じられません。倉庫会社の幹部役員が元・天津港公安局長の息子であり、コネで許可を得ていたとの証言が出ています。法律で住宅地区から1キロ以内には建設不可のはずが、マンション群から600メートル近くに造られました。
人民解放軍の化学防護部隊が18日から散乱しているコンテナや容器をしらみつぶしにあたり、金属ナトリウムが入っているかどうか分別にかかっています。金属ナトリウムは遠く住宅地区まで飛んでいったようで、雨がかかると煙が出る白い粉があるとの訴えが住民多数から出ています。1万7000戸に及ぶ住宅損壊の問題はこれからです。
最初の爆発は何らかの火災への消火放水が金属ナトリウムに掛かって起き、それによる高温が硝酸アンモニウムを大爆発させたと見てよいでしょう。化学薬品がある場所に消防士が安易に放水してしまうなんてと不審に思えますが、中国の消防士を日本のプロフェッショナル消防士と一緒にしてはいけません。
福島香織さんの《プロの消防士がいない中国〜天津化学薬品倉庫爆発事故、悲劇の必然》が消防士研修は3カ月しかなく、《主力の公安消防隊は、解放軍傘下の武警消防隊を通じて徴用される「消防新兵」と呼ばれる兵士たちである。彼らは2年の任期でほとんど義務兵役のような形で配属される。このため、ベテラン消防士というのはほとんど存在せず、その多くが20〜28歳で、その経験不足から死傷率が高い》と中国消防士の実情を伝えています。
しかも、このレベルの消防士ですら圧倒的に不足しているのです。今度の事故で180人を超えている死者・行方不明者の大部分が「非正規」の消防団員だったと伝えられて、政府も正規消防士と同じく「烈士」として扱うと言い出しました。千人を超す消防士が出動したと言われますが、危険な化学火災に対して、とてもお寒い内情だったようです。
では端緒の火災はどうして起きたか、示唆的な報道があります。レコードチャイナの《<天津爆発>危険物質の利益率は40%、コスト削減のため業者が管理規定守らず―中国メディア》が業者による、とんでもない規則無視と違反を報じています。
《天津は危険化学物質の輸出港として中国北部最大規模を誇り、その生産、輸送、保管に関しては厳格な規定が定められている。専用の車両、人員、路線、確認作業が定められ、多大なコストがかかるが、物流企業と生産企業が結託し、普通貨物として取り扱うことでコストを圧縮している。港湾付近の道路は各種の車両で混雑し、危険物質が積載された車もその中に混じっており、本来ならば積み降ろしにも厳格な規定がある。「時限爆弾を抱えて走っているようなもの」と匿名の専門家は指摘する》
拝金主義が蔓延した結果、重大なモラル崩壊が起きています。それを止める力が日常的な利益供与を受けている共産党幹部にあろうはずがありません。一番の早道は報道の自由化によるメディアと国民の大衆的監視強化ですが、党指導部にはその気はありません。むしろ報道締め付けによる批判の封じ込め、共産党独善の道を走っています。
中国原発については第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」などで、大気汚染など環境問題では第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」などで論じてきました。中国政府は天津爆発は特異事例として逃げる方針のようですが、むしろ社会制度やモラルまで含めた安全システム構築失敗が凝縮された典型例のように見えます。
TNT火薬にして3トン分くらいの爆発がまずあり、30秒後にTNT火薬21トン分の大爆発があったとされています。現場には直径100メートルの大穴が開いています。現場の危険物倉庫にどんな薬品がどれくらいあったか、事故1週間たってようやく伝え始められました。
人民網日本語版の20日付《天津爆発、危険化学物質の種類と量が公表 約40種類・2500トン》によると《危険化学物質は大きく3つに分けられる。1つ目は酸化物(硝酸アンモニウム、硝酸カリウム)で、計約1300トン。2つ目は可燃物(主に金属ナトリウムおよびマグネシウム)で、計約500トン。3つ目はシアン化ナトリウムを中心とする猛毒で、約700トン》です。
青酸ソーダとも呼ぶ猛毒シアン化ナトリウムについては許可貯蔵量の30倍以上と言われ、水が掛かれば爆発的に発火する金属ナトリウムや、爆薬の原料になり210度で爆発する硝酸アンモニウムにしてもこれほど大量に貯蔵しておくとは信じられません。倉庫会社の幹部役員が元・天津港公安局長の息子であり、コネで許可を得ていたとの証言が出ています。法律で住宅地区から1キロ以内には建設不可のはずが、マンション群から600メートル近くに造られました。
人民解放軍の化学防護部隊が18日から散乱しているコンテナや容器をしらみつぶしにあたり、金属ナトリウムが入っているかどうか分別にかかっています。金属ナトリウムは遠く住宅地区まで飛んでいったようで、雨がかかると煙が出る白い粉があるとの訴えが住民多数から出ています。1万7000戸に及ぶ住宅損壊の問題はこれからです。
最初の爆発は何らかの火災への消火放水が金属ナトリウムに掛かって起き、それによる高温が硝酸アンモニウムを大爆発させたと見てよいでしょう。化学薬品がある場所に消防士が安易に放水してしまうなんてと不審に思えますが、中国の消防士を日本のプロフェッショナル消防士と一緒にしてはいけません。
福島香織さんの《プロの消防士がいない中国〜天津化学薬品倉庫爆発事故、悲劇の必然》が消防士研修は3カ月しかなく、《主力の公安消防隊は、解放軍傘下の武警消防隊を通じて徴用される「消防新兵」と呼ばれる兵士たちである。彼らは2年の任期でほとんど義務兵役のような形で配属される。このため、ベテラン消防士というのはほとんど存在せず、その多くが20〜28歳で、その経験不足から死傷率が高い》と中国消防士の実情を伝えています。
しかも、このレベルの消防士ですら圧倒的に不足しているのです。今度の事故で180人を超えている死者・行方不明者の大部分が「非正規」の消防団員だったと伝えられて、政府も正規消防士と同じく「烈士」として扱うと言い出しました。千人を超す消防士が出動したと言われますが、危険な化学火災に対して、とてもお寒い内情だったようです。
では端緒の火災はどうして起きたか、示唆的な報道があります。レコードチャイナの《<天津爆発>危険物質の利益率は40%、コスト削減のため業者が管理規定守らず―中国メディア》が業者による、とんでもない規則無視と違反を報じています。
《天津は危険化学物質の輸出港として中国北部最大規模を誇り、その生産、輸送、保管に関しては厳格な規定が定められている。専用の車両、人員、路線、確認作業が定められ、多大なコストがかかるが、物流企業と生産企業が結託し、普通貨物として取り扱うことでコストを圧縮している。港湾付近の道路は各種の車両で混雑し、危険物質が積載された車もその中に混じっており、本来ならば積み降ろしにも厳格な規定がある。「時限爆弾を抱えて走っているようなもの」と匿名の専門家は指摘する》
拝金主義が蔓延した結果、重大なモラル崩壊が起きています。それを止める力が日常的な利益供与を受けている共産党幹部にあろうはずがありません。一番の早道は報道の自由化によるメディアと国民の大衆的監視強化ですが、党指導部にはその気はありません。むしろ報道締め付けによる批判の封じ込め、共産党独善の道を走っています。
中国原発については第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」などで、大気汚染など環境問題では第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」などで論じてきました。中国政府は天津爆発は特異事例として逃げる方針のようですが、むしろ社会制度やモラルまで含めた安全システム構築失敗が凝縮された典型例のように見えます。