第515回「中国の異様な言論統制、安全弁も根こそぎ圧殺」
中国共産党機関紙・人民日報の編集幹部が「政府は非建設的な批判でも一定程度受け入れるべき」と唱えてネット民に大反響を呼びました。メディアも大学も圧殺する言論統制が進む現実の中、悪い冗談か本音かです。2月14日、人民日報の下にある環球時報、胡錫進編集長が中国版ツイッター・微博につぶやき「新中国の歴史が証明するように、言論の自由は社会の活力と不可分」とまで言っています。言論の自由は中国の憲法に明文規定があるのに、習近平政権になってから4年、思想・言論の統制は厳しくなる一方です。社会的な安全弁になる意見の多様性やオルタナティブな議論など不要とされ、党と政府の言うことを聞く愚民だけいればいい方向に突き進んでいます。以下に引用したのは問題の「つぶやき」画像です。
中国のメディアにいる記者、新聞10万人、テレビ15万人にマルクス主義の試験を通らないと記者証を更新しないと伝えられたのが2013年10月でした。さらなる記者受難の報道が今年になって重なってきました。
1月末には時事通信《消される調査報道=記者の逮捕に波紋−「暗部」取材を警戒・中国》が甘粛省で《地元紙の調査報道記者3人が相次ぎ失踪、うち1人が月末に「恐喝」容疑で逮捕されたことが分かり、大きな波紋を呼んでいる。記者は拘束前に「社会の暗部」の取材・報道を続けており、当局から圧力や脅迫を受けていた》と報じています。金と時間が掛かる調査報道自体にも各地メディアで危機が迫ります。
2月、朝日新聞の《中国の新聞元編集者が失踪 社内規定暴露で当局拘束か》が《「南方都市報」系のニュースサイト元編集者が1月にタイで失踪し、中国の公安当局に拘束されていることが分かった。元編集者は国外で、中国共産党の指示に沿った非公開の社内規定を暴露したため、当局に強制的に連れ戻されたとの見方も出ている》と伝えました。
このような例は裏側を知らないと理解できません。福島香織さんが《弾圧と低賃金と闘う「中国新聞労働者」の受難》で低い収入の中で多数の記事を書き続けなければならない実態を紹介しています。日本などのメディアと大きな差があり、その上に真実に迫れば冤罪の危険まで加わります。
かつては政府批判をする先生がごろごろいたはずの大学。2013年5月、マイクロブログで先生のつぶやきから暴露されニュースとして世界を駆け巡ったのが、大学で話してはいけなくなった「七不講」通達です。「普遍的価値」「報道の自由」「市民社会について」「市民の権利について」「中国共産党の歴史的過ちについて」「権貴資産階級(権力者・資産階級)について」「司法の独立について」いずれも語るべからずとされました。
次いで2015年1月には中国教育相が「欧米の価値観を掲げる教科書を教室に持ち込ませてはならない」とし、「中国共産党の指導力を中傷したり社会主義を汚す見解が大学の教室に持ち込まれることがあってはならない」と語ったといいます。
そして、今年1月、ロイター《中国当局、大学教授らの「不適切」発言を監視》がこう伝えました。《中国共産党の中央規律検査委員会が、大学の授業中に政策批判などの「不適切な」発言が行われていないかを監視するため、調査官を大学に派遣したことがわかった》《共産党員に対し、主要政策に対する批判的な発言を禁じる規則が1日から施行されたことが背景にあるとみられる》
最初は「べからず」訓示の形に留まったものの、今年からはお目付け監視役を大学に派遣してがんじがらめにするところまで進んでいます。
ネットなら言論の自由が生まれるかと思わせた希望もとっくに消え去っています。大規模なネット検閲が実施されているのは公然の秘密です。香港大の研究チームがどんな言葉が検閲・削除対象か、ネットを監視して割り出しています。《中国政府がいま最も恐れているのは、ネット上の「くまのプーさん」》によると、毛沢東に習う個人崇拝にまで進もうとしている習近平主席がらみが目立つようです。
2015年の検閲《1位に輝いたのは、オープンカーにくまのプーさんが乗るかわいらしいプラスチック製おもちゃの写真》。《クルマに乗ったプーさんの写真がなぜ検閲の対象になったのかというと、実は、中国では習近平国家主席は「くまのプーさん」に似ているとバカにされているからだ》。トップ20のうち習主席がらみが4件だそうです。
《2位は、8月に起きた天津市の爆発事故についてのポスト。少なくとも173人の死者を出した大規模爆発は政治家や警察を巡る癒着や役人の職権乱用が背景にあるとして大きな批判が噴出した》《3位は天津の事故からすぐ後に、遼寧省鞍山でも小規模な爆破と火事が起き、「鞍山で救助を待つ人はすぐにポストをしろ」と発言されたポスト》
民衆の不満が政府に向かわないよう細心の注意が払われ、事前に芽を摘むように働いているのです。そして、中国のネット対策は2016年に更に飛躍するとの観測も出ています。
西本紫乃さんによる《民意と向き合うために中国が進めるSFばりの超監視社会》は「インターネット・プラス」戦略に注目しています。《どうやら中国国内の有力なインターネット企業に資本を集中的に投入してネット市場における支配的な地位を占めさせ、国民生活のさまざまなサービスをそれら企業のIT技術によって提供して、ほぼすべての国民がその中に包括されるようなシステムをつくる》。《個人のデータを国家の一元的な管理のもとに置こうという戦略らしい。どうやら「インターネット・プラス」はITサービスを総動員した国家的な監視システムを作り上げるという巨大な構想のようだ》
2016年の年明けに流れている情報を集約すると中国が進んでいる道はますます異様に見えます。第505回「中国変調、政治ばかりか経済の民主化も遠のく」で「中進国の罠に陥らずに経済発展するには政治の民主化が必要」と指摘しました。社会に備わった民の力を生かさないで国力発展は無いはずですが、経済民主化ではなく国営大企業へのさらなる集中、南シナ海問題など外交でも周辺国を無視した独善と、傍目にも困るターニングポイントを今年になって回りつつあるのです。
1月末には時事通信《消される調査報道=記者の逮捕に波紋−「暗部」取材を警戒・中国》が甘粛省で《地元紙の調査報道記者3人が相次ぎ失踪、うち1人が月末に「恐喝」容疑で逮捕されたことが分かり、大きな波紋を呼んでいる。記者は拘束前に「社会の暗部」の取材・報道を続けており、当局から圧力や脅迫を受けていた》と報じています。金と時間が掛かる調査報道自体にも各地メディアで危機が迫ります。
2月、朝日新聞の《中国の新聞元編集者が失踪 社内規定暴露で当局拘束か》が《「南方都市報」系のニュースサイト元編集者が1月にタイで失踪し、中国の公安当局に拘束されていることが分かった。元編集者は国外で、中国共産党の指示に沿った非公開の社内規定を暴露したため、当局に強制的に連れ戻されたとの見方も出ている》と伝えました。
このような例は裏側を知らないと理解できません。福島香織さんが《弾圧と低賃金と闘う「中国新聞労働者」の受難》で低い収入の中で多数の記事を書き続けなければならない実態を紹介しています。日本などのメディアと大きな差があり、その上に真実に迫れば冤罪の危険まで加わります。
かつては政府批判をする先生がごろごろいたはずの大学。2013年5月、マイクロブログで先生のつぶやきから暴露されニュースとして世界を駆け巡ったのが、大学で話してはいけなくなった「七不講」通達です。「普遍的価値」「報道の自由」「市民社会について」「市民の権利について」「中国共産党の歴史的過ちについて」「権貴資産階級(権力者・資産階級)について」「司法の独立について」いずれも語るべからずとされました。
次いで2015年1月には中国教育相が「欧米の価値観を掲げる教科書を教室に持ち込ませてはならない」とし、「中国共産党の指導力を中傷したり社会主義を汚す見解が大学の教室に持ち込まれることがあってはならない」と語ったといいます。
そして、今年1月、ロイター《中国当局、大学教授らの「不適切」発言を監視》がこう伝えました。《中国共産党の中央規律検査委員会が、大学の授業中に政策批判などの「不適切な」発言が行われていないかを監視するため、調査官を大学に派遣したことがわかった》《共産党員に対し、主要政策に対する批判的な発言を禁じる規則が1日から施行されたことが背景にあるとみられる》
最初は「べからず」訓示の形に留まったものの、今年からはお目付け監視役を大学に派遣してがんじがらめにするところまで進んでいます。
ネットなら言論の自由が生まれるかと思わせた希望もとっくに消え去っています。大規模なネット検閲が実施されているのは公然の秘密です。香港大の研究チームがどんな言葉が検閲・削除対象か、ネットを監視して割り出しています。《中国政府がいま最も恐れているのは、ネット上の「くまのプーさん」》によると、毛沢東に習う個人崇拝にまで進もうとしている習近平主席がらみが目立つようです。
2015年の検閲《1位に輝いたのは、オープンカーにくまのプーさんが乗るかわいらしいプラスチック製おもちゃの写真》。《クルマに乗ったプーさんの写真がなぜ検閲の対象になったのかというと、実は、中国では習近平国家主席は「くまのプーさん」に似ているとバカにされているからだ》。トップ20のうち習主席がらみが4件だそうです。
《2位は、8月に起きた天津市の爆発事故についてのポスト。少なくとも173人の死者を出した大規模爆発は政治家や警察を巡る癒着や役人の職権乱用が背景にあるとして大きな批判が噴出した》《3位は天津の事故からすぐ後に、遼寧省鞍山でも小規模な爆破と火事が起き、「鞍山で救助を待つ人はすぐにポストをしろ」と発言されたポスト》
民衆の不満が政府に向かわないよう細心の注意が払われ、事前に芽を摘むように働いているのです。そして、中国のネット対策は2016年に更に飛躍するとの観測も出ています。
西本紫乃さんによる《民意と向き合うために中国が進めるSFばりの超監視社会》は「インターネット・プラス」戦略に注目しています。《どうやら中国国内の有力なインターネット企業に資本を集中的に投入してネット市場における支配的な地位を占めさせ、国民生活のさまざまなサービスをそれら企業のIT技術によって提供して、ほぼすべての国民がその中に包括されるようなシステムをつくる》。《個人のデータを国家の一元的な管理のもとに置こうという戦略らしい。どうやら「インターネット・プラス」はITサービスを総動員した国家的な監視システムを作り上げるという巨大な構想のようだ》
2016年の年明けに流れている情報を集約すると中国が進んでいる道はますます異様に見えます。第505回「中国変調、政治ばかりか経済の民主化も遠のく」で「中進国の罠に陥らずに経済発展するには政治の民主化が必要」と指摘しました。社会に備わった民の力を生かさないで国力発展は無いはずですが、経済民主化ではなく国営大企業へのさらなる集中、南シナ海問題など外交でも周辺国を無視した独善と、傍目にも困るターニングポイントを今年になって回りつつあるのです。