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第533回「永遠に言い出せぬEU離脱通告、現状凍結しかない英」 (2016/07/01)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 英国の国民投票でEU離脱が多数になったのはベルリンの壁崩壊に匹敵する衝撃を世界に与え経済激震かとも思わせたのですが、伝えられる情報を集約するとEU離脱通告は英首相が誰でも永遠に言い出せぬと考えられます。EU離脱派が離脱手順をきちんと考えていなかった杜撰さが明らかになっていますし「公約」が投票後に撤回されるなどボロボロです。スコットランドの独立、EUへの残留なども取り沙汰されているものの英国本体が動けないなら余波もあり得ません。離脱成立を前提にした各種の論説・予測は無意味になるでしょう。

 離脱派の中心人物でカリスマ的人気を誇るジョンソン前ロンドン市長が、キャメロン首相の後継を選ぶ保守党の党首選で6月末の登録締め切り直前に出馬を見送りを表明しました。党首選で残留派を中心に支持を集めているメイ内相は離脱派議員などでEUとの交渉を担う専門の省を作り交渉の準備を進めるとしていますが、これでは肩透かしもいいところです。

 EU離脱を実行したいのなら1972年のEU参加を決めた法律を変えるのが最初のハードルです。現状では英国下院の3分の2を残留派議員が占めると言われており、個々の議員は自分の政治的信条に則ればよく国民投票の結果に縛られていませんから、そもそもの出発点から危うい所です。

 さらにもしEUとの交渉は始めてしまえば2年でケリは付かないのは明白です。既にEU側から「英国はEU域内労働者の移動の自由を認める場合に限り、単一市場に参入することができる」とする強硬な声明が発表されており、英国国民投票の建前からは受け入れられません。交渉が難航するなら延長もありえますが、EU加盟27カ国の内で1国でも反対なら不可能です。交渉を始めてしまえば包括的な貿易協定なしにEUから追い出される結果が見えているのに、誰が英首相でもEU離脱通告は出来ないでしょう。

 国民投票で結果が出たのに従わないのは民主主義の否定とも言われますが、EUから裸で放り出された場合に生じる国民が受ける巨大な損失を前にEU離脱通告を急かす世論は形成されないでしょう。総選挙も再度の国民投票も難しいなら現状凍結しかないとい言わざるを得ません。宙ぶらりんが続くのは困ると言われても決めようがありません。

 30日付のフィナンシャル・タイムズの《英離脱、最善策は何もしないこと》は《現時点で最善の策は何もしないことだ。英国は、自らが望むものを考え抜いて決めなければならない。EUは移動の自由が果たして不可侵なのかどうか考えなければならない。英国は50条を発動するのを避けるべきだ。発動したら英国は影響力を失い、恐らくさらなる貿易協定がないまま2年以内にEUから追い出される》と主張しています。

 今回の国民投票の経緯を見ていると、問題とされたEUへの分担金と見返りの恩恵への精査や、移民問題での検証があまりにも杜撰に過ぎます。EUに加盟しているから生じている問題と大英帝国時代から引きずっている問題の切り分けも出来ていません。英国のマスメディアが読者・視聴者に果たすべき役割を怠ったと申し上げて良いでしょう。

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