第549回「原発次世代炉への幻想が崩壊、原子力存続に暗雲」

 電機の名門東芝の屋台骨を揺さぶる原発事業の大損失は一企業の失敗に留まらないでしょう。次代の原子力を担う新型炉への幻想が崩れ、やはり新型の欧州加圧水型炉も高コストで苦戦する中、原子力の未来は暗いのです。東芝・ウエスチングハウスの新型炉「AP1000」と仏アレバの欧州加圧水型炉「EPR」だけが「第3世代プラス」の次世代炉ではなく、韓国の「APR1400」もあってアラブ首長国連邦(UAE)に輸出され建設も順調だと「エコノミスト」誌は持ち上げています。しかし、欧米に比べて韓国の規制当局の眼が節穴である点は第498回「来年は中韓で危うい新大型原発の運開ラッシュ」で紹介した窒素ガス漏れ警報機不備による死亡事故で明確になっています。建設順調は規制が緩いだけであり、出来上がった原発は「伏魔殿」である可能性が高いと申し上げておきます。  ATOMICAサイトの《AP600及びAP1000 (02-08-03-04)》から引用した「AP1000の受動的炉心冷却システム」の図です。高い位置に燃料取替用水タンクを置いて、電源喪失時や冷却系の故障時でも弁が開いて炉心に注水され崩壊熱除去は運転員が何もしなくても3日間は大丈夫となっています。福島原発事故で海水炉心注入に苦労した事態を思い起こして下さい。安全への取り組みが軽減されて《ポンプ、弁、配管、電線等の減少が著しい。すべてのポンプ類とディーゼル発電機が非安全系となったことも単純化に寄与している》とされ、コスト低減、工期短縮に威力発揮のはずでした。

 ところが、7000億円以上の巨額損失が米国での原発4基建設の遅れから発生してしまいました。中国でも4基が建設中で、ウォールストリートジャーナルの《東芝の苦境を物語る中国原発事業の誤算》はこう報じています。

 《三門1号機の建設は遅れに遅れている。例えば、冷却システムの基幹部品に問題があり、作業が2年余りも遅延した。しかも、ウエスチングハウスが三門1号機の設計作業を完了するまでに何年もかかったため、建設はさらに遅れ、顧客である中国国家核電技術公司の怒りを買った。三門1号機の建設は当初の計画から少なくとも3年の遅れが生じている》

 《その後、より根本的な問題が発覚する。それは技術的な作業が完了する前に建設作業を開始してしまったことだ。ウエスチングハウスは現在、この決定は誤りだったと認めている。同社が設置済みの機器をわざわざ取り外し、技術面での再検査を長期にわたって実施したのは一度や二度のことではなかった》

 米国の規制当局が基盤鋼材の強度不足を見つけて、交換のためにコンクリートの基礎を壊して打ち直す作業をしたり、新型になった冷却材ポンプ内部の羽根車が試験で破損、設計のやり直しを迫られたりもしました。ウエスチングハウスは加圧水型炉の開発者ですが、米国では30年近くも原発の新設が無くて建設の経験が失われ、しかも全く新しい設計の新型炉となると苦戦せざるを得なかったと評すべきです。

 今回の東芝騒ぎを受けたワールドニュークリアニュースの《What's really killing America's nuclear plants》は2030年までには米国で稼働する原発99基の3分の2が停止するだろう、建設中はAP1000の4基だけであるのに軌道修正は難しい――と憂いています。

 フィンランドとフランス、中国で建設中のアレバEPRは出力165万キロワットの大型原発ですが、過酷事故時の安全対策に凝っているために建設コストが当初の3倍にも跳ね上がり、工事べた遅れでいずれも未完成ながら1基1兆円を超える見込みです。これでは原子力の未来は担えません。さらに東芝と子会社ウエスチングハウスのAP1000までも巨額損失を出す事態は、リーズナブルで信頼できる次世代原発の建設者が存在しなくなる恐れを意味するのです。