第562回「経済オンチの国家トップ戴く中韓の危うさ急拡大」

 中韓両国でトップによる強引な政策が目立ちます。習近平主席、文在寅大統領ともに経済オンチと言われる中で、中国は大手企業支配へ銀行融資を絞り、韓国は時間当り最低賃金千円を目指し企業に補填補助金を出します。中国の既得権益層である共産党員は賄賂・汚職を潤滑油として社会を回してきました。反腐敗キャンペーンが進んで、これからは企業経営も党の方針に沿うよう縛られ自由度が狭められます。開放型経済で企業に伸び伸びやらせて技術革新を図らせるのとは正反対に向いています。一方、韓国新政権は高止まり失業率対策として81万人の公務員増員を打ち出して野党の猛反対にあっています。最低賃金を大きく上げると零細企業が払えなくなるので月に労働者1人1万円程度を政府が補助する政策はバラマキも良いところで、公務員増員と並んで後々の世代まで持続可能か疑わしいと見られています。

 ウォールストリートジャーナルによると、中国企業は日本の80年代バブルを思わせる海外の大型買収に浮かれていたが、今年に入って習近平国家主席の指示に基づき中国政府は大企業への銀行融資を停止させ、海外M&A統制に乗り出しています。これまでの成長一辺倒を支えた銀行低利融資を返済するメドが立たない大企業が増えています。有力政治家と結んでいた政商にも、これからは自由にさせない方針のようです。習近平派と見られていた大連万達集団の創業者、王健林氏が7月にホテルや不動産の大半を処分させられ、海外投資で規則違反があったので銀行融資禁止の懲罰を受けました。

 ダイヤモンド・オンラインの《習近平が内外に見せる強権支配はいずれ「しっぺ返し」を受ける》が背景にある危機的状況をこう指摘します。

 《国内では、過剰生産能力の解消が進まず、不動産バブルへの懸念も高まっている。すでに、民間セクターの債務残高はGDPの200%を超えた。これは、1980年代後半から1990年代にかけてのわが国に匹敵する。わが国の過去の事例を見れば明らかなとおり、バブル崩壊後には不良債権処理とバランスシート調整が不可避だ》

 《中国はその痛みを恐れ、インフラ投資を増やすことで、経済成長率を人為的に支えている。今後、不動産投資の減少などによって景気の減速懸念が高まった場合には、一段の財政措置が取られるだろう。習氏が支配基盤を強化するためにも、国内の経済が低迷し、民衆の不満が高まる展開は避けなければならない。当面、中国経済が財政政策頼みの展開となる可能性は高まっている。この状況が続く間、中国経済の需給のミスマッチは放置される可能性が高い》《問題は、市場が債務リスクや資本の流出圧力に耐えられなくなったとき、世界経済に無視できない影響が発生する恐れがあることだ》

 習近平主席は社会の隅々まで統制したい志向を持っています。第560回「中国は個人情報を統一管理、雁字搦め社会を志向」で顔認証技術を使った街頭での市民の行動制御の試み、各種信用情報まで一元化しての国民個人評価が動き出している状況を伝えました。自由を与えないで経済オンチが差配するのでは、経済発展が腰折れする「中所得国の罠」を回避できる見通しは暗いでしょう。

 日本の最低賃金は2017年度で全国平均時給848円と決まりました。政府は1000円を目指しているものの、まだ差があります。ところが韓国は1000円に相当する1万ウォン早期実現を掲げました。《文在寅政権 慎重論ある最低賃金1万ウォンへとまい進》は《労使と政府推薦者でつくる最低賃金委員会は来年の1時間当たりの最低賃金を前年比16.4%増の7530ウォンに決めた。2010年以降の最低賃金の引き上げ率は2.75〜8.1%だった。今回の引き上げ幅は文大統領が20年までに同最低賃金を1万ウォンに引き上げることを公約として掲げたことが後押ししたとされる》と報じました。

 世論は最低賃金引き上げを支持していますが、早速、副作用が現れました。政府の補填補助が無い企業には大幅な引き上げは過酷なのです。朝鮮日報の社説《企業の韓国離れ、最低賃金が決定打》がこう主張しています。

 《韓国繊維業界を代表する京紡が光州工場の生産設備をベトナムに移転すると発表した。京紡は日本による植民地統治期に民族資本で設立された株式会社第1号で、韓国の資本主義史で象徴的な企業だ。先ごろ全紡も韓国国内の事業所6カ所のうち3カ所を閉鎖することを決めた。限界に追い込まれた繊維産業が最低賃金引き上げを合図に一気に崩壊している》

 《両社が事業の縮小や生産移転を決めた根本的な原因は、韓国繊維産業が直面する構造的な経営難だ。低付加価値型の繊維企業が競争力を失う中、最低賃金引き上げが最後の一撃となった。京紡は「最低賃金の引き上げ率を10%と予想していたが、それをはるかに上回る16.4%に決まり、忍耐の限界を超えた」と説明した。政府の過激な最低賃金引き上げが100年続く企業を国外に追い出している》

 文在寅大統領は16.4%の内、過去に比べて大幅な9%分、月にして1人1万円程度を零細業者に財政で補填する方針です。これには政府に近い左派系のハンギョレ新聞《「最低賃金引き上げに伴う10万ウォンの支援で、自営業者の廃業は減るだろうか?」》が疑問を投げます。

 《ソウル市九老区(クログ)開峰洞(ケボンドン)で7年間焼肉屋を営むKさん(45)は、この頃深いため息をついている。来年最低賃金が大幅に上がる。彼は「厨房とサービングに職員6人とアルバイト3人を使っているが、来年から毎月の人件費だけで200万ウォン(約20万円)程度支出が増えることになった。周辺の食堂との競争のために食事代を値上げすればお客が減ることは明らかだ。まったく答が見えない」と訴えた》

 政府補填の効果について《イ・ヨンミョン東国大学教授(経営学)は「零細自営業者が職員1人当り1カ月に10万ウォン程度を支援されても、種々の手続き的煩わしさを甘受するだろうか?財政健全性を考慮すれば、政府の賃金補てんは持続性がなく望ましくもない」と指摘した》

 文在寅大統領は米国の意向を無視して北朝鮮に会談を呼びかけたように自分中心の思い込みが強いようです。外交では第559回「韓国新大統領のヌエ政策が早くも破綻しつつある」で紹介した通り、米中両国から疎んじられる状況です。相手がある外交ばかりか、独自に出来る国内政策でも政策の精度を上げる能力を欠いているように見えます。