第581回「強面の米国に南北朝鮮と中国がタッグの様相」

 当事者が歴史的と謳う南北朝鮮の首脳会談の後、現地メディア韓国語ウェブの報道を見ると、登場していない強者米国に対し南北と中国が組んで対抗する様相です。中身が全く無い非核化を中国が高く評価して印象的です。北朝鮮のこれまでしてきた非核化交渉の経緯を見れば言ったことすら履行して来なかったのに、北朝鮮が「朝鮮半島の完全な非核化が目標」としただけで持ち上げるのです。

 この点で保守系の朝鮮日報が《【専門家の分析】板門店宣言、非核化原則的に言及、核心に触れず》で専門家の異論を早速、掲げています。高麗国際大学院長の指摘はこうです。

 《南と北は、完全な非核化を介して核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を持つとした。ところで、このフレーズが地雷原に見える。主語が南と北である。北朝鮮が考えている非核化は北だけでなく、韓国も含まれているものである。北朝鮮は駐韓米軍が核を持っているとしながら、米国が韓国側に提供する核の傘も撤廃すべきだとしている。北朝鮮のこのような従来の立場が強く反映されたものと思われる。私たちが考えている北朝鮮の非核化とは、かなりの違いがある》

 これは日本の専門家も指摘してきたところであり、北朝鮮は「朝鮮半島の非核化」とは言っても「北朝鮮の非核化」とは一度も言いません。板門店宣言ではこの原則的な立場が維持されており、韓国も北朝鮮に与すると見られても仕方がありません。

 ところが政府系のハンギョレ新聞《「完全な非核化」の最初の明記、米朝会談へ道を開いた》は北朝鮮に配慮して手放しの擁護です。

 《両首脳は、非核化、北朝鮮と米国の関係正常化、停戦協定の平和協定に転換を含む朝鮮半島の恒久的な平和体制定着に密度の高い協議をした可能性が高い。それでもこの日原則合意だけ発表したのは、金委員長とドナルド・トランプ大統領の首脳会談を考慮した布石とみられる。非核化具体策は金委員長が20日、労働党中央委全体会議で決定・公表した核実験場の閉鎖を含む「未来の核放棄」と共に「体制の安全」保証を目指して交渉するカードだからだ》

 韓国大統領府も「首脳間で色々な議論があり、後日、説明する」と言っています。

 朝鮮日報が中国共産党系の環球時報インターネット版がどう伝えたか紹介しています。《ムン大統領はトランプの「スーパー特使」、韓国にワシントンから独立促す》です。

 《「板門店宣言は南北首脳会談の成果として期待の上限に達した」とし「成功と見ることができる」と報道した》《板門店宣言に書かれた内容はすべて具体的な計画ではなく、ビジョンとし、最終的に米国が出て北朝鮮と交渉を行わなければならないと伝えた》《「韓国が過去に過度にワシントンに従った」とし「ソウルは今後、自分の意見をより勇敢に堅持しなければならない」と勧告した》

 南北会談の直前にもトランプ大統領が「北朝鮮との会談はキャンセルもある」と脅しています。これについても環球時報は米国だけで決める問題ではなく、韓国にも意見を言う権利があると援護射撃しています。

 非核化は言葉の遊びでは達成できないと過去の交渉経緯が示しています。第576回「非核化査察団に移動・行動の自由がポイント」で指摘したように、具体的な検証を可能にする仕組みなしでは、米国を狙うICBM完成への時間稼ぎに終わります。南北首脳会談がこれほど北朝鮮ペースで、中国まで含めた米国包囲網になってくると、トランプ大統領の性分からすれば逆に受け入れない可能性が高まるかも知れません。