第582回「北朝鮮が米に苛立つのは体制保証への無理解か」

 南北閣僚級会談を一方的に中止し米朝首脳会談の再考を言い出した北朝鮮。既に始まった軍事演習を理由にしつつも、ポンペオ米国務長官が持ち出した体制保証が求めているモノではないと拒否したのではないでしょうか。金正恩国務委員長ら支配層が求める体制保証は強権的な権力支配構造の維持であり、国民全体を豊かにする普通の国への転換ではないと考えられます。むしろ、国全体が豊かになれば社会が民主化に走って権力は失われます。民主化を阻止するために必要な、中国が「ブラックテクノロジー」でしている国民を監視・管理する技術も資源もありません。中国が協力しても第569回「中国の目指すSF的な個人行動管理社会が見えた」で述べたシステムを移植する余裕も時間も無いでしょう。

 15日の中央日報日本語版《ポンペオ氏「非核化実現したら北朝鮮住民に肉が食べられるようにしたい」》を見て強い違和感がありました。

 《ポンペオ氏は「北朝鮮のエネルギー網の建設とインフラ発展に米国の民間部門が支援することができる」とし「米国民の税金を投じて北朝鮮を支援するわけにはいかないが、制裁を解除して米資本が北朝鮮に投入されるようにする」と明らかにした》《ポンペオ氏は体制保障というもう一つの“ニンジン”も提示した。「北朝鮮の政権交替を追求しない」ということだ。中央情報局(CIA)局長だった昨年7月の時点では、ポンペオ氏は北朝鮮政権交代論者だった。そのような彼が「我々は確実に安全保障を提供する」としながら「我々が望むのは金委員長が自国と自国民のために戦略的に変化することで、このような準備が整った場合、トランプ大統領も援助する準備をするだろう」と説明した》

 北朝鮮支援は実現したとしても米政府資金ではなく、民間ベースであり、当然ながら国際的なビジネスのルールに沿う中身が必要です。そうでなければ民間の資金は動きません。そして「金委員長が自国と自国民のために戦略的に変化する」のなら現在の強権的な支配構造を捨て去る結果が待つでしょう。

 シンガポールでの米朝首脳会談が開かれた場合、米国側は強硬姿勢に出ます。14日の朝鮮日報日本語版《ボルトン米補佐官「北朝鮮の核、全て米国に運搬して廃棄」》は《北朝鮮の非核化について「全ての核兵器を廃棄し、テネシー州オークリッジまで運搬することを意味する」と述べた。北朝鮮の完全な非核化のために、北朝鮮にある全ての核兵器を米国に搬出し、米国が直接廃棄するというわけだ》としています。

 既に数十の核弾頭を持つと想定されていますから、その半分くらいを米国に引き渡して「良い子」ぶって米国の軍事行動を避ける可能性が指摘されています。その後で「核が完全に存在しない」証明は、少量の核物質隠匿を摘発しきれないため現実に極めて困難です。

 しかし、そこまで米国に譲歩して得られる成果が自らの体制への揺さぶりではかないません。締め上げられている国際制裁の解除と、支配層が自由になる資金や物資が欲しいだけでしょう。韓国との南北交流も南の文化や豊かさを見せる場面は極力排除しないと国民に動揺を招きます。板門店宣言で韓国ムン政権は浮かれていますが、北朝鮮はこれまで実質的な譲歩はしていませんし、門戸を開く構えも見せていません。