第602回「中国の労働人口、今後は1億、2億と減る衝撃」

 2018年に中国の人口は減少に転じたと唱える研究者が出て、21日の国家統計局の発表は打ち消しに必死でした。しかし、人口ボーナス存続との主張は無理で、これからは億人単位での生産年齢人口減少が待っています。国家統計局のデータでも、半世紀以上も増え続けてきた就業人口が2018年に初めて前年比でマイナスに転じました。高齢者の雇用増があっても就業増加はもう無理なのです。発表の数字をまとめると、2018年の中国本土の総人口は13億9538万人、年間出生人口は1523万人、死亡者数993万人、16〜59歳の生産年齢人口は8億9729万人で60歳以上人口2億9449万人は総人口の17.9%を占めます。就業人口は7億7586万人で前年比54万人減でした。人口推移予測と就業人口減のグラフを掲げます。  中国社会科学院は生産年齢人口を「15〜59歳」と設定しているのに、国家統計局発表(中国語)は「16〜59歳」としているために2018年時点でギャップが生じているので注意してください。国際標準は「15〜64歳」であり、国家統計局のデータベースも最近はそうなっていますが、中国の労働者定年は男性が60歳、女性が55歳になっています。こんなに早い引退は困るので女性は3年で1歳、男性は5年で1歳引き上げて65歳を目指す方向が打ち出され、2018年からは実施になるはずなのに中国政府は動きません。昨年の第577回「皇帝・習近平では法定退職年齢引き上げは困難」で指摘したように庶民の懐を直撃する改革は強い独裁体制であるほど難しいでしょう。

 この法定退職年齢改革に手をこまねいたままだと、上のグラフのように2050年には生産年齢人口の現役世代1人で子供と高齢者1人分を支える事態に至ります。これからは、年間2500万人以上生まれていた1960年代が退職していくのに、新たに現役になっていく21世紀世代は年間1600万人程度しか生まれていないのです。生産年齢人口が2020年から10年間に毎年800万人ほど減り、2030年過ぎには現在から1億人も少なくなると読み取れます。2045年には2億人減です。人口が増え続けて行く米国を、現役人口が大きく減る中国が経済規模で抜き去るなど不可能です。  国家統計局発表では中国の労働参加率は上昇していると誇っていますが、就業人口もついに下がり始めました。生産年齢人口と就業人口が同時に減るのですから引退した高齢者が急速に増え、社会保障の制度負担が急増していきます。2015年の第482回「国家のエゴが歪ませた中国年金制度は大火薬庫」で中国人研究者の論文を参照して、その保障体制が実は瓦解していると指摘しました。納められた年金資金は直轄市や各省の地方政府が管理しており、使い込まれている可能性が高いのです。最近、地方政府の隠れ債務摘発が報じられているのを見ると借金返済ができない自転車操業ぶりです。あれで年金資金だけがきちんと残っている可能性はまず無いでしょう。

 中国の人口そのものが減少に転じたと主張したのはAFPの《中国、70年ぶりに人口減少 「人口動態上の危機」 専門家》でした。

 《米ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)の研究者、易富賢(Yi Fuxian)氏の分析によれば、2018年の全土の出生数は前年から79万人増加するとの予測に反し、実際は250万人減少した》《易氏の集計によると、2018年の中国の死者数は1158万人で、総人口は127万人減少。同氏はAFPに対し、「中国の人口は、1949年に現在の中国が建国されてから初めて減少を始めた。高齢化の問題は加速し、経済の活力は弱まっている」と述べた》

 この研究者は、国家統計局は実際に把握していない3人目などの出生を多めに見積もり、逆に死亡者数は少なめに見積もっていると考えているようです。2018年の出生数1523万人は前年から200万人減と劇的に少なくなり、一人っ子政策を止め2人目を解禁したのに1人目の出産が大きく減った可能性が高いと見られます。大きな曲がり角だったのは間違いなく、生産年齢人口減少は上のグラフの予測より加速し早く進むものと思われます。