第605回「PM2.5で韓国抗議はねつけ石炭火力大増設する中国」

 1週間も強烈なPM2.5スモッグに悩んだ韓国のメディアが「責任は中国にある」と叫んだら、中国共産党系の環球時報があっさり一蹴しました。科学的な研究を怠ってきた韓国に自前で改善している中国は強気です。しかし、汚染源になる石炭火力発電の大増設が中国で進行中です。レコードチャイナの《「韓国世論は衝動的」「常識を逸脱」=大気汚染問題で中国紙が社説》は次のように手厳しく批判しています。

 《ソウルなどで発生しているスモッグが中国と全く関係ないとは言えない。しかし、韓国メディアが言うような50%以上、75%以上が中国からという話は、常識の域を逸脱している。だいいち、中国北部のスモッグはここ数年改善傾向にある。それなのにどうして韓国のスモッグはますます深刻化しているのか。まさか、北京のスモッグをみんなビニール袋に詰め込んで、ソウルの上空にバラまいているとでも言うつもりなのか》

 中央日報日本語版の《中国発粒子状物質、汚染度高い地域経由して韓半島へ飛来(1)》は国立環境科学院から報告書「高濃度粒子状物質精度向上のための概念モデル開発研究」を手に入れ、中国に反論する重要な資料になるとしています。汚染物質が黄海を渡るケースや旧満州地域まで回って朝鮮半島を南下するケースを考えていますが、モデルであって有無を言わせぬ実証性はあまり感じられません、

 4日付の私の第604回「大気汚染が深刻・長期化、春の韓国は避けるべき」で国立環境科学院が見直しをした結果、2015年のPM2.5韓国内排出量が2014年の6割増しになった話を紹介しています。まさに、韓国側がするべきことを怠ってきた証拠証明です。  言葉の応酬にとどまらず、今後さらに事態が深刻化すると予測させるデータが明らかになりました。国際環境研究団体であるコールスウォームが中国側に大規模な石炭火力発電増設があるとのリポートを公表しました。上の大気質指標地図に見られる黄海西側に広がる汚染の源は工場群以外に石炭火力増設があるようなのです。朝鮮日報日本語版の《【社説】中国に石炭火力発電所がさらに464基建設されたら韓国はどうなるのか》は危機意識をあらわにしています。

 《また新たに息の詰まるようなニュースが伝えられた。中国の石炭火力発電所が昨年1年間だけで78基新たに稼動し、合計2927基に達したという国際環境団体の報告書が公表されたのだ。中国政府は当初、2020年までに石炭火力発電所を設備容量1100ギガワット(GW)に制限するとしていたが、既に982ギガワットに達し、さらに259ギガワット(464基)の新設備が建設されたり計画されたりする。韓国の石炭火力発電所(計37ギガワット、78基)の7倍に当たる容量が新たに作られるということだ。しかも、新規発電所の多くが黄海に面した中国東部に集中して建設されるということで、「韓国が粒子状物質排出量を削減しても意味がないのでは」との声が漏れても仕方ないだろう》

 石炭火力増設も大気汚染の実情も中国は詳しくは明かそうとしません。朝鮮日報社説は韓国政府の力で中国側データを何とかして手に入れ、国内汚染データも整備して、きちんとした国際協力に持ち込むべきと主張します。。北京の大気の改善は工場などを北京から遠くに追い出して達成された面もあり、額面通りに汚染物質が減ったとは受け取れないとも言えます。

 また、大韓医師協会は国家災害として大統領直属の微細粉塵対策特別機構を作れと主張していますが、韓国政府がはかばかしい動きを見せません。大統領は中国と共同で人工降雨に取り組むと言い、環境部の長官はソウルの中心部に一定間隔で屋外用空気清浄機を林立させる構想を言い出して、専門家からは実効性に強い疑問を呈されています。中国に対しては低姿勢で接する習慣が身に付いて強く出られない政府のもどかしさをメディアは指摘、せめてマスクでも国民に配れとまで皮肉ります。

 このままでは悪役中国の好きにし放題です。黄海西側に石炭火力が集中立地なら日本への相当な影響も考えられます。