第611回「駆除至難害虫が台湾に到達、日本へは稲作が心配」

 昨年8月にインドで報道され今年初めに中国に侵入したガの害虫ツマジロクサヨトウが早くも台湾に到達しました。一晩に百キロも飛ぶ飛翔力は脅威で島伝いに日本侵入もあり得そうで、特に稲作は対処が至難に見えます。熱帯性の虫で1カ月で世代交代し繁殖力も抜群、トウモロコシ、稲、大豆、麦、綿など重要作物を幅広く食べます。中国での拡散は既に黄河の南側の18省に及び、今後はトウモロコシの主要産地である黄河北側への拡散が心配されています。寒冷地では越冬できないのが唯一の弱点です。  拡散ぶりを示す地図を作りました。雲南省から台湾まで2000キロ、わずか5カ月で到達しています。日本語による台湾の最新状況は18日付フォーカス台湾《駆除に農薬使用を義務付けへ 台湾本島での害虫成虫確認受け》にあります。幼虫が見つかったのは6月8日でした。

 《18日午前までに台湾全域の22カ所で計56匹の成虫が見つかった。発見された県市は、金門、馬祖、澎湖の離島3県に加え、新竹、苗栗、嘉義、屏東、花蓮の台湾本島5県の8県。ツマジロクサヨトウの分布が拡大すれば、台湾の農業に甚大な被害が出るのではないかと懸念されている》

 中国語のサイトを見ると幼虫の大きさが揃っているので、台湾に着いたメスが生んだ卵が一斉孵化し、第一世代の成虫が出来た段階と考えられます。台湾海峡は狭いところは131キロで中国大陸との間に金門、馬祖など島があり、ツマジロクサヨトウはここでも見つかっています。百度サイトに掲げられた虫の写真を以下に引用します。  6月段階の中国の状況はNNA ASIA《トウモロコシの害虫拡大、政府が緊急対策》が報じています。

 《中国農業農村省は5日、南北米大陸原産の害虫、ツマジロクサヨトウによるトウモロコシなどの農作物への被害が拡大している問題を巡り、緊急対策を発表した。全国への拡散防止に向け、使用を奨励する農薬25種類を指定した》《ツマジロクサヨトウは主にトウモロコシや水稲、小麦などイネ科の植物を好み、5月中旬時点の農作物被害面積は湖南省で約1,330ヘクタール、福建省で約6.7ヘクタールなどとなっている》《繁殖能力が高く、成虫の場合1晩で100キロメートルを飛行して移動することから拡散防止は困難であるとされる。中国農業科学院植物保護研究所の江幸福研究員は「トウモロコシの主要生産地である東北地域や華北地域にいったん侵入されれば、深刻な被害を招く恐れがある」と警鐘を鳴らしている》

 アメリカ大陸が原産の害虫で2016年にアフリカに侵入して甚大な農業被害をもたらし、2018年にインドに入った報道はCNN《駆除「不可能」の害虫、アジアに到達 アフリカで壊滅的被害》にあります。

 《インド南部カルナタカ州で確認されたほか、隣接するタミルナドゥ州の農業大学のキャンパスでは、トウモロコシの約15〜20%でツマジロクサヨトウの痕跡が見つかった。アフリカでは十数カ国に被害が広がり、ジンバブエでは作物の70%に被害が出た地域もある。国際農業生物化学センター(CABI)や英国際開発省によると、ツマジロクサヨトウによるアフリカ諸国の被害額は、24億〜61億ドル(約2672億〜6792億円)に上る見通し》

 ◇完全駆除不能な害虫と共生の仕方が難しい

 原産地のアメリカでは虫に毒性がある遺伝子組換えトウモロコシにより商業栽培が維持されています。《GMO情報: Btトウモロコシの害虫抵抗性管理対策 〜緩衝帯ルールと小口栽培制限〜》に詳しく書かれています。

 そんな便利なトウモロコシ品種があれば害虫駆除は簡単とはいきません。全部の畑を遺伝子組換えトウモロコシにしてしまうと、毒素(トキシン)に抵抗性がある害虫が生まれてしまいます。2割の畑は普通のトウモロコシにして緩衝帯を設けます。《緩衝帯設置は、Btトキシンに対する抵抗性は劣性遺伝で、トキシンに抵抗性を発達させた個体が生まれても、周囲の緩衝帯で生まれた感受性個体と交尾することによって子孫には抵抗性が発達しないという理論に基づいている》

 もし日本へのツマジロクサヨトウ侵入を許した場合に、このトウモロコシ商業栽培と同様の手法は使えないでしょう。遺伝子組換えコメなど買ってもらえません。小規模農業をしているアフリカでもアメリカの真似は無理です。国連食糧農業機関(FAO)が推奨しているガイドが食品安全情報blog《FAOはアフリカの直面するFall Armyworm(ヨトウムシ類)対策のガイドを発表》にあります。

 《統合的、生態学的、持続可能なやりかたでヨトウムシと戦う。アフリカ全体に拡大するヨトウムシ対策ガイドを発表。小規模農家や前線で対応する農業スタッフの役にたつように作られた。農家の教育と地域の対応が重要。対策としては、畑に行ってよく観察、卵があったらつぶす。成虫がどこに卵を産むか、天敵はどれかを知る。ガの幼虫を殺す真菌やウイルスを利用する。石灰や灰も使う》

 中国では天敵を生産して使う動きが出ています。6月14日付《中国はツマジロクサヨトウに対するカメムシ類の使用を探求》(中国語)にこうありました。

 《今年の初めに中国に侵入し、18の省や市に広がり、今月は北東部のトウモロコシ栽培地に到着し、来年はすべての穀物生産地に拡散すると予想されています。雲南省での野外試験で中国の科学者は、カメムシ類が1日で最大41のツマジロクサヨトウの幼虫を殺すことができると発見しました。植物保護研究所は、年間1000万匹のカメムシ類を繁殖させることができる工場を設立しました》

 巨大人口に対し余裕が無い中国の食糧生産です。この害虫をのさばらせたら国として命取りになりかねません。日本も自分の問題になり得るとして考えるべきです。