第639回「ラオスダム崩壊、被災民へ劣悪極まる遅い補償」

 人口700万人の小国ラオスで2年前に起きたダム崩壊事故は、被災民にとても劣悪な補償で幕を引こうとしています。電気も水道も十分でない家に浸水する耕地、現金補償は一人数百ドルと加害企業の良心が疑われます。報道をまとめると補償と環境整備の総額は9170万ドル、98億円余りです。被災民は補償交渉の前面に立つことは出来ず、ダム施工の韓国SK建設など加害企業とラオス当局がまとめた交渉内容を丸呑みするしかなかったようです。昨年の第609回「ダム崩壊の原因究明、韓国がズサンで被災者放置」で伝えたように、ラオス政府調査委が過失による加害責任を認めたのにSK建設は拒んでいました。一方、崩壊した土盛りの補助ダムから1キロの場所にコンクリートのダムが造られて2019年末から商業発電が開始されました。結局はダム建設運営企業体が掛けていた保険5000万ドルに少し色を付けて補償した形です。  ラジオフリーアジアrfa.orgの7月9日付「New Homes Built For Lao Flood Survivors Two Years After Dam Collapse」に掲載された被災民向け住居建設現場の写真で、毎年のように浸水すると伝えられる土地なので高床なのでしょう。「ダム崩壊の生存者たちは、約束された新しい家の場所について懸念を表明しています。一部の家は平坦でない場所、一部は丘の斜面に設置され、多くの新しい家には十分な水や電気が提供されません」と問題が多いと伝えています。

 また、被災民1万4400人の内、1万人は上下水道が十分でなく環境が悪い一時避難所から既に出ており、残る4400人だけが家を貰えるそうです。あまりに遅い補償に、今年5月に国連がラオス政府と加害企業に行動するよう呼び掛けていました。

 義理の親の元に家族で身を寄せている被災者は補償は約束の半分しか受け取っていないと言い、「残りの補償についてはまだ聞いていません。私の分は442ドルから553ドルで、多くはありません」と話しています。なお、政府が死亡と認めた犠牲者71人には1人1万ドルが支払われていますが、十分とは言えないでしょう。

 やはりrfa.orgの5月27日付「Survivors of 2018 Dam Collapse in Laos Begin Receiving Compensation」は耕地の補償開始について報じています。「1,270世帯への補償は、2,140ヘクタールの土地で稲作に使えます」「家族内に2人の働き手がいる場合、その家族は1ヘクタールの土地を取得し、3人または4人の家族は2ヘクタールを取得します」

 昨年の時点では被災民は乾燥した丘陵に移転する話があり、そこでは稲作が不可能で食料自給が出来なくなってしまいます。今回の補償耕地は低い土地で毎年のように浸水すると言い「米を育てても実りが少ないかもしれない」と心配されています。「政府は被災民の生活状態を2023年頃までに安定したレベルに改善する計画を持っている」そうですが、被災民にあまりに諸条件が悪く現金補償が少ない点に、被災者本位でない裏事情があるのではと疑われます。水力発電ダムがラオスでは盛んに造られており、電力輸出で「東南アジアのバッテリー」になるとの野心的な戦略の国策になっています。