第666回「ロシアをモノ不足で三流農業国に落とす西側」

 
 ロシアによるウクライナ戦争は極めて短期的な優劣は見通せませんが、来年までのスパンで考えればもう勝敗は決したと言えます。ロシアは軍事強国、工業国、宇宙開発国、大産油LNG国の現状から転落して三流農業国への道を歩んでいます。米国が中心になった西側制裁は強烈なモノ不足をロシアに強制して、今後、立ち上がれないほど弱体化させようと意図しています。先が見えないプーチン大統領は成り行き任せの戦争に賭けるしかなくなっており、短期的にもウクライナ軍へのNATO側によるロシア軍狙い打ち兵器供給に無力です。

 ブルームバーグ25日付《ロシアの弱体化望むと米国防長官−ウクライナでの行動繰り返させない》を見て、ここまで本音を言って良いのかと衝撃を受けました。

 《オースティン米国防長官はロシアについて、「ウクライナ侵略で行ったようなことができなくなる程度まで弱体化」するのが望ましいと、米国として考えていると述べた。また、ウクライナが主権を有する民主主義国家であり続け、自国を守ることができるよう望んでいるとも語った》

 プーチン大統領が「欧米諸国によるロシアへの経済制裁は失敗した」と誇らしく主張した直後に驚くべき発言です。20日付のロイターは《プーチン氏、欧米の制裁はWTOルール違反と主張》で、《ロシアの金属産業に関する政府会合で発言し、西側諸国の制裁でロシアは圧延金属や鋼板などの材料を購入できなくなったと指摘。制裁は「欧州諸国が常に固執してきたWTOの原理に反している」と語った》と報じました。

 気付くのが遅すぎます。西側はWTOやIMFなど国際的な貿易や金融システムからロシア締め出しを始めているのです。これまでのように西側から半導体や金属材料、機械、部品などを潤沢に購入できる前提でいる方がどうかしています。

 ロシア側のドメインで見つけた証言を紹介します。ロシア語ですからパソコンの機械翻訳で読んでみます。《ロシア連邦の燃料およびエネルギー部門における問題の2つの最も重要な分野は、加工および生産における技術の国内市場の赤字である》で、石油・ガス機器製造業者連合(SPNGO)のコンスタンチン・ラディンスキー会長は《私は、燃料とエネルギー部門における問題の2つの最も重要な分野を特定します。なぜなら、実際、わが国では事実上輸入代替されていないからです。加工工場を見に行けば、私の言いたいことが理解できるでしょう:すべてのバルブ、すべてのポンプはほぼ90%が外国です。しかし、最も重要なことは、これが外国の「頭脳」によって制御されているということです:日本、ドイツ、フランスの技術があります》と言っています。

 《外国の専門家が来ず、時間通りにサービスを提供しなかったためにいくつかの製油所が失敗した場合、私たちがすべてを持っているという事実にもかかわらず、販売するものが何もないという問題がすでにあります》そう、石油もガスも大量に地下にあっても、売り物に出来ないのです。

 大産油国、大LNG産出国の看板さえ西側の技術が無ければ虚妄に落ちます。ウクライナ戦争でロシア軍は既に精密誘導弾が欠乏して、第二次大戦のような砲弾を大量に打ち出して相手をくじくしか出来なくなっています。ロシアはこれまで格好が良い兵器は造ってきましたが、それに使う軸受け(ベアリング)や回転軸といった現代工業に必須の部品や半導体を製造できません。今後、西側ではなく盟友中国から買う手がありそうですが、精密なベアリングは日本とドイツしか作っていません。まさに軍事用、あるいは宇宙用はその精密ベアリングです。

 ロシアには軍事強国、工業国、宇宙開発国、大産油LNG国でもない、平凡な農業国しか道は残っていません。今後も、少なくとも大産油LNG国であり続けるとの前提で書かれている評論や報道にはとても違和感があります。