第667回「オミクロン株は手強く昨年末の安定に戻れない」

 
 日本国内の新型コロナウイルス感染状況が下げ渋りから6月20日を底に微増に転じました。人口100万人あたり1週間の感染数は25日で「815」と、昨年末の安定状況に比べて相当に高いままです。首都圏や関西圏など人口が大きい都府県は軒並み増加になっています。オミクロン株の手強(てごわ)さは世界的に見てさらに強い傾向にあり、一時言われた集団免疫は望めそうもない印象です。国内と世界主要国の感染動向を示すグラフをふたつ並べます。  23日付の第88回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードは「新規感染者数について、全国的には一部の地域を除いて減少傾向が続いているが、その減少幅は鈍化しつつある。地域別に見ると、減少を続けている地域もあれば、横ばい又は増加の兆しが見られる地域もある」としていました。増加の兆しが現実になりました。

 世界の状況を見れば、日本の微増はまだ僅かな変化だと知れます。ドイツやフランスなど欧州主要国は6月に入って感染が倍増です。1月末で新型コロナ規制全廃に踏み切ったデンマークは国民への感染が進み、現在は感染者累計が国民の55%にも達しています。5月末には集団免疫が期待できると思わせる人口100万人あたり1週間感染数「380」まで下がりましたが、現在は日本の2倍以上に増えています。フランスも感染者累計が国民の45%もあります。

 東アジアでは台湾が苦戦しています。かつては模範的な防疫国だったのに1日の感染者がまだ4万人も出る状況で、人口割で見れば日本の20倍です。オミクロン株の感染力は非常に強く、台湾では感染者累計が国民の15%ですからまだ感染の余地があるようです。日本の場合、感染者累計が国民の7.4%と少ないのに比較的歯止めが効いているのは国民の防疫意識によるものなのでしょう。

 非人道的と言える強烈なロックダウン措置で封じ込んだ中国。26日発表の市中感染は北京市3人、上海市2人でした。この他に無症状感染が出ています。世界の状況を見れば中国だけ例外は無理で、遅かれ早かれオミクロン株の脅威にさらされるでしょう。

 国内の問題は、デルタ株を抑え込んで安定した状況を作り上げた昨年末に戻れそうにない点です。デルタ株と異なる性質のオミクロン株とどう付き合うか判断しないまま、ずるずると進んでいるのが現在の状況です。海外観光客を受け入れ始めたと言っても、おっかなびっくりぶりが海外から批判されています。

 オミクロン株が季節性インフルエンザよりも致死率が高いとの資料は《オミクロン株による新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの比較に関する見解》にあります。要約するとインフルエンザ致命率は0.09%なのに、オミクロン株の致命率は0.13%程度です。

 デルタ株の致死率は《HER−SYSデータに基づく報告》にあります。《コロナ感染陽性者の致死率:高齢者(65歳以上)で6,931人中282人(4%)、65歳未満で45,812人中35人(0.076%)、65歳未満の致死率は低かったが、年齢が上がるほど致死率は上昇していた》

 高齢者でない世代ではデルタ株でも致死率はそう問題ではなかったのです。

 現状でも高齢者の死亡が多くて、若い世代から感染の心配が言われます。しかし、昨年末の安定状況に戻れぬのに過剰な対応は考え直すべきで、オミクロン株との共存を指向すべく大幅緩和をして良い時期でしょう。第88回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードはマスク着用について《学校においては、体育の授業・運動部活動や登下校の際にはマスク着用が必要ないことを学校現場に周知・徹底することが必要》と明記しているのに、子どもたちは相変わらずマスクで登下校です。同調圧力が強い国民性なので明確な緩和方向を示さないと動き出しません。政府の態度はまだ煮え切りません。