第678回「最後までサッカー伝道師、新世界でのメッシ讃」

 アメリカのサッカーは国際的に見れば弱く人気スポーツリーグがひしめく中で二級品でしたが、史上最高選手の一人リオネル・メッシがMLSリーグ最下位のインテル・マイアミに加入して1カ月余り、9戦全勝継続、11得点3アシストでリーグスカップ杯をチームにもたらす快挙で様変わりしました。メッシと試合が出来る好機を生かしてリーグ全体が変わろうとしています。契約は2年半、最盛期を過ぎた36歳のメッシがアメリカをサッカー伝道の最後の地に選んだように見えます。

 試合会終了間際に勝負を決めたり、敗戦をひっくり返すミラクルプレーが続出しています。AFPBB24日付《メッシ、残りキャリア「すべての瞬間を楽しみたい」》は、このように言葉を伝えています。

 「正直に言って、まだ(引退については)考えていない。プレーするのが好きで、ピッチでボールとともに戦ったり、練習したりするのを楽しんでいる」「今一番大事なのは、残っているものを楽しむこと。それが何であっても、少なくても多くても構わない。すべての瞬間を楽しむ。特に取り戻せないものだから、後悔はしたくない」

 最初の9得点はユーチューブ動画《All Lionel Messi 9 Goals in 6 games at Inter Miami》に4分で簡潔にまとめられているのでご覧ください。フリーキックでの見事な得点、ゴール前にパスを呼び込み決める巧みさ、長距離シュートなど多彩ぶりに驚かされます。

 メッシは止められない、とカップ杯決勝で敗れた敵将も呆れています。21日付《ナッシュビル指揮官がメッシのパフォーマンスに脱帽「対処するのが不可能になる瞬間がある」》はこう言います。

 「メッシのプレーを生で見たのはこれが初めてだ。そして、私が感じたのは、メッシを相手にするのは不可能な瞬間があるということだ。長時間ではない。90分間ではない。彼が息を吹き返し、彼のやりたいことに対処するのがほとんど不可能になる瞬間がある」「メッシが決めたゴールは信じられないようなもので、何もないところから生まれたんだ」    これがその10点目ゴールの写真です。ペナルティーエリア前でボールを拾い4人の守備陣が並ぶ前を左に移動し、際どいシュートコースを見つけてゴール左上隅に突き刺しました。

 次の試合はUSオープンカップ準決勝で、相手はリーグ最上位のシンシナティでした。3人の守備陣をメッシに張り付けてゴール前では何もさせない構えを取って封じます。90分が終わる敗戦直前にメッシは中盤から絶妙なロングアシストボールをゴール前に送り、ヘディングで同点としました。

 メッシとともに加入したバルセロナ全盛期を支えた3選手はチームの若手にアドバイスして育てています。何よりも実戦でメッシからボールを貰い、得点につなげる喜びは計り知れないでしょう。今年のリーグ戦22試合で22得点だけのチームが、カップ戦8試合で25得点を挙げてしまいました。

 直近のリーグ戦最初の試合でメッシは後半30分だけ出場して1点を挙げました。ゴール前でボールを貰ったけれど守備陣に囲まれてどうにもならない状況に陥ると、右サイドの若手が手をあげてボールを要求、メッシのパスで守備陣は右に動き、若手から返ってきたパスで楽々とゴールしました。メッシのサッカー脳がチームに広がっていると認識できました。

 夢のようなストーリーに続きの高みがあるとすれば、リーグ戦のプレーオフに進出して優勝してしまうことでしょう。27日付《メッシのミッション・インポッシブル。下位に沈むインテル・マイアミをプレーオフ進出に導けばMLSの奇跡に》を読めば、その困難さが分かります。しかし、メッシに怪我さえなければ可能ではないかと思えてしまいます。

 【8/30追補】これまでのメッシ全試合を評価する記事が出ました。それぞれの試合に動画が付いていますから絶好の読み物です。GOAL8/28付《MLSインテル・マイアミでのリオネル・メッシ全試合評価》

 最初の3試合でメッシ5得点はまばゆいばかりです。大事なのはチームの全選手がどんどん上達していくのが見える点です。メッシは加入契約からいきなり実戦に入っており、本当のオン・ザ・ジョブ・トレーニングを実践しました。本来ならリーグ戦最下位チームが優勝を目指すなんてお笑い沙汰ですが、メッシに鍛えられたら不可能でないと思えます。今年、アルゼンチン代表としての試合があるために3試合はMLS(メジャーリーグサッカー)を欠場するとアナウンスされており、メッシ抜きでも勝てないとプレーオフへの道は厳しいのです。